F. [éf](エフ)

 

2019年11月にスタート。「ストーリーから選ぶ花束」をコンセプトに掲げ、さまざまなシチュエーションを想起させる三つの物語と、それに呼応したデザインの花束をシーズンごとに提案している。贈る側と贈られる側を繋ぐ物語とユニセックスなデザイン、花を飾った先の先までを考えたサービス設計により、新しい花束の選び方を提案している。

サービス立ち上げの原点は、「花=女性」というイメージへの違和感

―花束を届けるサービスを立ち上げた森本さんですが、もともとお花が好きだったのですか?

 

森本:正直に言うと、昔は花にあまり興味がなかったんです。花といえばチューリップやバラくらいしか知らなかったですし、「花=可愛いらしいもの」という印象しかなくて。でも、大学生のとき、茶道をやっている母に「あなたもやってみたら」と言われたけどなんだか気が進まなくて、代替案として華道を始めました。何かを作る作業は好きだったので、花という素材を使って造形を考える華道ならまだ続けられるかなと。

F. [éf]代表の森本智子

―最初は仕方なく、だったのですね。

 

森本:はい。でも華道をとおして、つるや枝物といった造形的に面白かったり渋さやかっこよさだったりのある植物に触れるうちに、花全般に興味が湧いてきて、洋花を使ったフラワーデザインも習うようになりました。お花を好きになった一番大きなきっかけとなったのは、洋花に触れるなかで、中性的なお花に出会ったことですね。

 

―「中性的な花」とは……?

 

森本:私が中性的だと感じた花は、ネイティブフラワーと呼ばれる、南半球が原産地のものたちです。例えば、リューカデンドロン、プロテア、エリンジウムといったお花があります。ゴツゴツした見た目やドライな質感、淡白な色味など、どこかジェンダーレスな雰囲気を持つネイティブフラワーを見たときに「可愛いだけじゃない、こんなに面白い花もあるんだ」と驚き、花のことがもっと好きになりましたね。

白い実をつけているのがシルバーブロニア、赤い葉色の花がリューカデンドロン。F. [éf]の花束にもよく使われる南アフリカ原産の花たち

白い実をつけているのがシルバーブロニア、赤い葉色の花がリューカデンドロン。F. [éf]の花束にもよく使われる南アフリカ原産の花たち

森本:そのような背景と、自分で事業を立ち上げたいという思いが繋がり、花に関する事業をやりたいなと思い立ちました。そこからは、花をよく購入する人やフローリストなど、いろいろな方にインタビューをしてサービスの方向性を模索しました。当初は、私を含め、周りに花好きな女性が多いことから、女性向けのサービスを想定して実証実験を繰り返していました。でも、トライアルに参加してくださった男性にお話を聞いたことをきっかけに、事業の方向性を変えることにしたんです。

 

―どのような話を聞いたのでしょう?

 

森本:「花を買いたいとは思っているけれど、花屋に入るのが恥ずかしい」といった、花を買ううえでの心理的な障壁があるというお話をうかがいました。

 

その男性と話すなかで、私自身、偏見を持っていないつもりでいたのに「花=女性」という意識が根底にあることに気づきました。本当は、植物に性別は関係ないはずですよね。そこで、「花をもっとユニセックスに」「男性も抵抗なく花を買える世界を作ろう」という思いを軸に、F. [éf]を立ち上げたんです。もちろん、花を買うことに抵抗がない男性もいらっしゃると思いますが、それでもまだ男性が自分のために花を買ったり、同性の友達に花束を贈ったりするのはハードルがあると感じたので、まずは「女性に花を贈りたい男性」をコアターゲットに決めました。

花束を贈ることはエモーショナルな体験。物語を添えて演出する

─「男性も抵抗なく花を買う」を実現するために、どのようなことにこだわっていますか?

 

森本:ひとつは花束のデザインです。F. [éf]のコンセプトが決まった頃、かねてよりお付き合いのあった「figue L'Atelier du Fleurs」の鈴木梨紗子さんにお声がけし、以来一緒に花束のデザインをしていただいています。 ネイティブフラワーを積極的に取り入れ、クールで中性的に仕上げるF. [éf]のデザインは、鈴木さんと相談しながら、シーズンごとにブラッシュアップしているこだわりの一つです。

 

1月から2月まで展開している花束「Belong」。チューリップ、リューカデンドロンをメイン花材に、シルバーブロニア、ユーカリ、グレビレアなど、ネイティブフラワーをふんだんに使った色味を抑えたデザイン

―「ストーリーから選ぶ花束」というコンセプトも、男性へのアプローチの一つですか?

 

森本:はい。男性が困っていることの一つに、「花をプレゼントするとき、なぜこの花を選んだのか」の根拠が、感覚的で言語化しづらいということがあります。実際に、「奥さんや恋人にその理由を聞かれて答えられずに困った」という男性もいました。なかには直感で花を選んで買ったあとに、店員さんに花の種類を聞いて、花言葉などから理由を後づけするという方もいました。

 

でも、花を誰かのために選んで買う、というのはとてもエモーショナルな体験です。そんな大切なプレゼントを、後づけの理由とともに贈るのはすごくもったいない。そこで、花束を選ぶ体験をもっとポジティブに変えられるよう、花束に意味=ストーリーを添えることを考えました。

「Hopeful」というタイトルがつけられたパンジーをメインにした花束。ECサイトには花束や花の写真とともに、「エールを、追い風に変えて。」というキャッチコピーと150字ほどのストーリーが添えられている

「Hopeful」というタイトルがつけられたパンジーをメインにした花束。ECサイトには花束や花の写真とともに、「エールを、追い風に変えて。」というキャッチコピーと150字ほどのストーリーが添えられている

─花束にストーリーを添える。そのプロセスを教えてください。

 

森本:ストーリーは、コピーライターと私で作っていて、はじめに私がメインとなる花を2種選びます。

 

その後、コピーライターが私の伝えた花言葉や、花の質感・特徴などを元にストーリーの原型を作り、調整を重ねていきます。シーズンごとに3つの花束をリリースしているので、ストーリーのテイストが偏らないようにバランスを考えていますね。例えば、一つは付き合いたての恋人へのプレゼントやプロポーズに使えるようなロマンチックなもの、あとの二つは長年連れ添ったご夫婦がプレゼントし合えたり、友達や母親に贈れたりするような、落ち着いたデザインのものなど、シチュエーションを思い浮かべながら綴っています。

「Sunlit」と名づけられた花束。「色あせない愛」という花言葉を持つセンニチコウがメインの花として使われている

「Sunlit」と名づけられた花束。「色あせない愛」という花言葉を持つセンニチコウがメインの花として使われている

森本:花の選定からストーリー作りまでの制作期間は、早ければ1か月半ほどですが、難航すると3か月くらいかかることも。少しずつストーリーを改良したり、「ああ、こんな風に相手のことを感じることってあるな」と共感していただけるよう工夫しながら制作したりしているので、難しいと感じることもありますが、花束のデザインとキャッチボールしながら、しっかりと想いや意味のあるプロダクトを作り上げていくという点では最も楽しくF. [éf]らしいプロセスだと感じます。

ネガティブな花言葉は、ストーリーに人間味や個性を生む

─ストーリーを作るうえで、意識していることはありますか?

 

森本:ストーリーのなかに「余白を作ること」を大切にしています。花束を贈る相手やシチュエーションが想像できるような具体性を持たせつつも、「この花束はパートナーにあげるためのもの」とこちらが決めつけることはせず、お客さまが自由に解釈できる余地を残すようにしています。

 

―たしかに、詩的なストーリーが印象的でした。

 

森本:あとは、男性が花束を渡すときに、恥ずかしくなりすぎないようにすることも意識していますね。例えば、「綺麗」という花言葉があるとき、直球で「あなたは綺麗で美しい」と書いてあったら、恥ずかしくて渡しづらい人もいると思うんです。そこで、比喩を多く使って照れ隠しに使えるような要素も盛り込むようにしていますし、ときにはあえて少しネガティブな花言葉を入れることもあります。

花束とともに、ストーリーを綴ったメッセージカードも一緒に届けている

花束とともに、ストーリーを綴ったメッセージカードも一緒に届けている

─具体的にはどのようなものでしょうか?

 

森本:以前販売していた「Reflect」という花束では、「心地よい孤独」という花言葉を持つネイティブフラワーのバンクシアを使いました。

 

一般的に花言葉には「美しい」「淑女」「優しさ」といったポジティブでロマンチックな言葉が多いのですが、そういった言葉を持つ花だけで組み立てていくと、特徴がない、ふわっとしたストーリーになってしまうことがあります。なので、ときにはネガティブなキーワードをうまくスパイスとして使い、ストーリーに人間味や個性を持たせています。花言葉単体で贈るのではなく、ストーリーとして再解釈されたかたちで贈るからこそできることだなと思っています。

バンクシアには「心地よい孤独」以外にも、「勇気のある恋」「心に鎧を着る」という花言葉も

バンクシアには「心地よい孤独」以外にも、「勇気のある恋」「心に鎧を着る」という花言葉も

森本:それに、花言葉がネガティブという理由だけで、花束に入れるのを避けられていた花もあるんです。そういった花も取り入れることで、お客さまに新しい花との出会いも提供できればと考えています。

花を捨てる体験もハッピーにする。F. [éf]からのメッセージとは

─ストーリーや花束のデザインのほかに、こだわっていることがあれば教えてください。

 

森本:花束だけでなく、お届けする商品の箱やウェブサイトのデザインなど、ブランドに関するすべてのトンマナをユニセックスにするように心がけています。特にウェブサイトは、ユニセックスなデザインを意識しても、花の写真が並ぶとどうしても女性寄りに見えてしまうので、試行錯誤しながら作っていきました。

 

─ウェブサイト内の「JOURNAL」で、頻繁に情報発信を行っているのも面白いですね。

 

森本:そもそも花とはどういうもので、どう扱えばいいのかといったこともお客さまにより理解していただきたくて、「JOURNAL」では花の魅力や取扱方法などもしっかり伝えています。

 

1月には花束を受け取った方側へのメルマガもスタートしました。花束につけているブランドタグのQRコードからメンバー登録していただいた方に、花束の経過に合わせて、お花のケアや楽しみ方についてのお知らせをお送りしています。お届けしてから10日目くらいの、花を捨てるタイミングには、F. [éf]からのメッセージをストーリーにして届けています。

―花を捨てる瞬間まで寄り添ってくれるのがいいですね。

 

森本:花に興味はあるけれどあまり買わない方々に聞いたところ、「買うのはいいけれど捨てるときが寂しくなる」といった声が多かった。花を届けてから役割を終える瞬間までもストーリーにすることで、プロダクトに一貫性を保てるだけでなく、捨てる寂しさから購入を控えている方の後押しまでできるのではないかと考えました。

 

また、花束として楽しんだあと、ドライフラワーにして2、3か月さらに楽しむための方法もお伝えしています。花束をデザインする際にも、ネイティブフラワーをはじめ、ドライフラワーにしやすい花を多く取り入れるよう意識しているんです。一連の提供を通じて、「捨てる体験」もハッピーにするし、捨てない選択肢もあるということを知ってほしいんです。

「男性も花を買う」を実現した先にある、生活の豊かさ

─では最後に、森本さんがF. [éf]で実現したいことを教えてください。

 

森本:「花は女性のもの、女性っぽいアイテム」という固定観念がまだまだあるのかなと感じますが、性別はまったく関係ないと思っています。現在は、「女性に対して花を贈りたいけれど、買うのに抵抗がある男性」がメインのお客さまですが、ゆくゆくは男性が花を買うことが当たり前になり、自分のために花を買ったり、男性が男性に花束を贈ったりするような世界を実現したいです。

 

それには、まずは「花を買う」という行為への難しさや抵抗感を減らすことが大切になるかと思います。F. [éf]としては、ストーリーを通してより「お花を選ぶ」ということの難しさ・障壁を低くすること、そして、お客さまにネイティブフラワーのような、変わった花やかっこいい花もあるということを伝えたり、花束を選ぶヒントをストーリーで提供したり、さらには花を捨てることもポジティブな体験にすることで、少しずつ皆さんの気持ちを変えていけたらと思っています。

ホームページに掲載されているカスタマーボイス。プレゼントとしてだけでなく、自宅用として購入する男性も増えてきている

ホームページに掲載されているカスタマーボイス。プレゼントとしてだけでなく、自宅用として購入する男性も増えてきている

─F. [éf]を通じて、花がより人々の生活に身近なものになっていきそうですね。

 

森本:そうだと嬉しいですね。私自身、家で花を飾り、日々花の手入れをするようになって生活が変わりました。例えば、花瓶を集めたり、花を綺麗に飾るための棚を買ったり。日々の生活がどんどんアップデートされていくのを感じています。F. [éf]が目指している世界の先で、人々の生活の豊かさにも貢献できたらと思っています。

Text by 石塚振 Photo by Kazuo Yoshida Edit by 吉田薫(CINRA)

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2021.02.24