ファッション業界の中でも無類の古着好きとして知られるスタイリスト・原田学。彼が偏愛してやまないものは、色や柄、デザインにとにかく強い主張がある古着。ここでは、普通に着ていたら思わず「それ、本気?」とツッコまれそうなほど個性たっぷりのアイテムを紹介していく。原田曰く、「お笑いのボケがそうであるように、古着も斜め上であればあるほどかっこいい」。今回は、ハマったら最後、古着界のイケおじ・レザーウェアについて語る。

 

レザーアイテムは誘惑だらけ

ヴィンテージショップ(古着店)を見てまわると秋冬は誘惑だらけで、ついつい誘惑に負けて仕事で探していたモノと全く関係のないモノを購入してしまうんです。夏はTシャツやシャツなどアイテムの幅が限られるのでそれほどの誘惑はないのですが、秋冬はアウターというヴィンテージ市場最大の誘惑がおるんです。アウターといってもコートやブルゾンなどの様々な種類のアウターがあるので、少し大きなヴィンテージショップなら店の各所にアウターが種類別で並んでいて、軽く店内を回るだけでいくつかのアウターの袖が私を引っ張ってくるんです。「買いや」「買ってき」「着てみい」「お兄さん寄ってきな」と言われているかのように誘ってきます。
冬もそろそろ終わりますが、今季はダウンジャケットを5着も買ってしまいました。元々、数着は持っていて暖冬でほぼ着なかったのにさらに5着増えました。でも誘惑に負けたと思っていません。勉強の為です。そんな仕事なんですと自分で自分に言い聞かせています。

 

ステアハイドのレザージャケット


数年前からこのアウターの誘惑で気をつけていることがあって、それは“レザーは買うな”ということです。私はレザージャケットが大好きなんですが、たくさん所有していると保管が難しくカビが生えて大変なことになったりするので、「ほんまに買ったらアカンねん」と思いながら今季はレザージャケットを5着買いました。
「おや?コレ誘惑どころか悪い古着病が再発してる」「助けてください!この病に効く薬あったらどなたか教えてください」


アウターに限らずレザーアイテムの誘惑に負ける理由は、“匂い”なんです。「コットンに匂いあるな」とか「PVCの匂い好きかも」と言い出すことはあるけど、匂いフェチって思わないでくださいね。むしろ私、電車で同じ車両に匂いの強い人がいたら車両変わる人です。罰ゲームでも人の脱いだ靴下とか絶対に嗅げない人なので。
でも、レザーの匂いは好きなんです。コーヒーを淹れてる時の部屋とか良い匂いですよね。それと同じでレザージャケットやレザーブーツが並んでいる店の匂いがたまらない。匂いだけで白飯3杯は食べられませんが、パンなら一斤くらい食べられますね。ハムをのせて食べている気持ちにはなるかもしれない…。

 

白く色抜けするレザーのキャスケット

 

古着好きなら放って置けないレザーの“経年変化”

レザーの誘惑その1の“匂い”は、このへんにしておいてレザーの誘惑その2“表情”の話にいきましょう。これはヴィンテージのレザージャケット(他のヴィンテージレザーアイテムも)ならではの魅力です。簡単に言うとデニムと同じで、着込まれるほどに豊かになる表情がレザーにもありとあらゆるベクトルであります。まずシワでしょうか。レザー→革→皮なので、おじいちゃんやおばあちゃんの顔や手のシワに趣があるように感じるのと一緒です。古くて着込まれてきた革ジャンのシワも、何年も何十年も着てできたものなので見ると心に浸みて「美しい」ってなる。擦れて傷が付いたり、表面の色が取れて濃淡が大きくなりどんどん表情が出来上がってくる。擦れたフェードの表情もいろいろあります。ワイルド系のレザー好きのあいだでは、茶芯にこだわる人がいます。茶芯?わかりませんよね。これはレザーの素材自体がもともと茶寄りの色だけど、染料でブラックに染める際に芯まで染まりきらないモノ、または素材自体を茶に染めてから表面をブラックで塗装する方法で染色したモノ。そのどちらかのブラックレザーがジャケットやブーツなど着込まれた時にスレやクラックを起こし、表面のブラックが薄れてところどころに芯の部分、つまり茶が見えてくる。それが茶芯と呼ばれ、とても人気があるのです。
そういったモノは非常に少ないというのも人気の理由かもしれませんが、たしかにカッコいいです。でも私は、芯が白っぽい方がブラックレザーとの差があって、より表情を豊かにしてくれるので好きです。しかし、芯が見えてくればいつか破れてしまう日が訪れます。破れるか?切れるか?穴開く?というギリギリのところの美しさもあるんですよね。



 


茶芯のジャケットとブーツ


仕事でヴィンテージのレザージャケットを紹介する本なども作るので、たくさんのお店から大量のレザージャケットを借りることもあります。お店ではハンガーに掛かって吊られているので、リースしてみると重力で左右の肩部分に負担が掛かり弱っていることが多いんです。それを怖いなと思いながらリースをお願いすると、お店のスタッフさんが「あいよッ」て適当に畳んでビニールの袋に入れるんです。それ見ながら私は「あー危ない、危ない」「破れへんかな?大丈夫か?」と嫌な汗をかいてしまいます。こう見えて自分、結構神経質なんです。受け取ったらお店を出てすぐ店の前で袋から出し、ジャケットの腕を優しく内に折り、襟と裾を合わせるように折り、ちょうど半分状態で破れやすい部分に負担が掛からない状態を確認して袋に戻し、クシャッとならないように壇上で卒業証書を校長先生から受け取った時のように両手で持ち上げて慎重に運びます。積み重ねる場合は、弱く危ないモノを一番上になるよう積みます。
ギリギリが美しいからこそ破れてほしくない。自分のだったら破れても、それはそれでカッコいいと思えますが。借り物ですし売り物ですから状態を保っておかないと。良い表情は保ち続け、受け継がれてほしい。ただそれだけです。

 

レザーの特有のシワ

 

種類が豊富なのもレザーの魅力

レザーの誘惑その3は、”種類”。レザーは動物の皮なので、動物の種類で質感も違います。表革もあれば裏革(スウェード)にヌバックも。ムートンにハラコも忘れてはいけません。種類豊富だからどの革も着てみたいと思ってヴィンテージショップを見て回ると欲しい、欲しいとなってしまいます。ある意味で歌舞伎町より誘惑が多いと思います。「ワニ革のバッグ欲しい!」ってなったら、ぼったくりバー並みに払わされるかもしれません。冗談ですけど。でもレザーの誘惑は怖いです。それなりにお金も掛かりますから。

ステアハイドの光沢感

種類を少し説明すると、まずはホースハイド(馬革)。1930年代や1940年代のレザージャケットに多く使われています。ミリタリーだとサマーフライトジャケットのA-2もそうです。丈夫で使っていくとツヤツヤしてくる。1950年代に多く使用されるようになるステアハイドもこれくらいの時代のモノはツヤツヤ感があるので、オイルを入れて磨いてツヤツヤ感を増すのも楽しみのひとつです。ヤレ感の美しさは、この1950年代くらいまでのレザージャケットが別格です。ゴートレザー(山羊革)はミリタリーの襟ボアが付く方の革ジャンG-1に使用されています。表面に天然の細かなシボがあるのが特徴で、薄くても丈夫で型崩れしづらい。着ていても楽に感じられるレザーです。

 

ゴートレザーの風合い

私がここ数年でよく買っているのはディアスキン(鹿革)です。他のレザーに比べて軽くて着やすいというのが、恥ずかしながらも一番の理由です。1930年代や1940年代のハンティング用のレザージャケットでも使用されています。フリンジの付くウエスタンなジャケットにもディアスキンはよく使われています。個人的にはフリンジも大好物です。腕の下に長いフリンジが連なるくらい大胆なのが最高です。今季もディアスキンのジャケットを買いました。それをヴィンテージショップで発見した当時、私は左肩を2箇所骨折していて手は上がるくらい回復していたのですが、まだ不自由で脱ぎ着を考えて着るモノを選んでいた時期でした。ただ目に入ったディアスキンのジャケットは、プルオーバーでフロントやサイドにジッパーも付かない。そんな被るしかないジャケットで’60sのアメリカモノなんてそうそうない。つい欲しい欲しいとなってしまいました。ただ被りアイテムなので、見た目で着れるかの判断が少し難しく、もう一人の私が心の中で「その肩で試着は無理やって。着れへんやろ」と囁きました。しかし、私は店員さんに「試着をお願いします」と言っちゃいました。不自由な左肩を考えると、顔と同時に左腕を上手く通すしかない。左腕は通ったけど頭を出そうとするともう少し左肩を下げたい…が痛い。「ウーッ」とちょっと声が出ました。無事に頭も通り自由な右腕はすぐに通せました。結果、ちょうど良いサイズで購入決定。ただ脱ぐ時も難しいので、やはり痛みを伴わないと脱げない。「ウーッ」ってまた声が出ました。レジでお金を払いながら自分で「ここまでしてレザージャケット買うか?」と思いました。同時にもう一人の自分が囁きました。「このジャケットええ思い出付きやな、一生手放せへんな」って。

 

ディアレザーのプルオーバー

あとはラフスウェードと言われる表面の起毛が雑で荒いモノも良いのです。汚れやすく少し黒ずんだり、起毛部分が擦れて消しゴムのカスが連なるような状態のなるのも格好いい。1970年代のヒッピーよりなどのカジュアルファッションアイテムに使われています。ポップな色もあって好きですね。
まだまだ、レザーの種類の話ができるくらい色々なレザーアイテムが好きで買ってしまいます。ちなみにレザーの種類によって匂いって違いますかね。利きレザーでもやりましょうか?自信はあります。
最後に、“レザーは買うな”ですが、やっぱり無理そうです。レザーの誘惑をかわし続けることは私には不可能。なんせ歌舞伎町より誘惑が多いのですから。