通学バスの待ち列を数えたことから人流に興味を持ち、自ら「人流観測cafe」と名付けてさまざまなカフェで待ち列を見つけては調査、記録を行い、その活動を発信しているtantan。人の流れを眺めてみると、流れの中では気付けなかったさまざまな発見があるのです。

 

待ち列を数えてみたら広がった視野

渋谷のスクランブル交差点を眺めるカフェや品川駅港南口に向かう歩行者デッキを眺めるカフェで人流をみながら優雅にお茶をしたいと思ったこと、一度はありますよね。「人流観測cafe」ではそのようなカフェを集めております。他人が働いている様子を安全圏から眺めるのはまさに愉悦と言えるでしょう。前述の渋谷と品川の店は有名ですが、ここもあるという紹介記事が複数ありました。しかし網羅的にまとめている人がいなかったためまとめております。24年3月現在53店に訪店しています。

 

品川駅の「人流観測cafe」からの眺め

私が人流に興味を持ったきっかけは通学バスの待ち列を数えたことからでした。私の出身大学のキャンパスは、最寄り駅からバスで通学する人が多く、授業がある日は150m以上のバスの待ち列ができることもしばしばあり、学内の不満でもありました。ふと思い立ち、その待ち列の人数と乗車人数を数えてみたところ、単に数えるだけで待ち列という不満の解像度が上がっていきました。解像度について具体的に説明すると、2016年時点のバスの待ち列は150mで平均して250人並んでいました。単位を長さから人数に変換できるだけで、バスの輸送可能人員と履修者数との比較、シェアサイクルなどの他の通学手段の検討や、曜日ごとの履修者数の平準化の要望などができるようになりました。その様子が楽しかったため、待ち列の計測は1年ほど続きました。そこで待ち列ひいては混雑や人流に興味を持つようになり、私にそれらの情報が集まってくるようになりました。その後、他大学のバスの待ち列との比較をするために全国の約20キャンパスの計測も行いました。

 

出身大学でのバス待ち列。先頭から写真の最後尾までの見通しはないため、バス停入庫から発車までの間は乗車人数を、発車以降すぐに待ち列を計測していた。

 

できるかぎり数値化・分類

大学を卒業して会社員になり、平日の朝、約1時間半のバス待ち列のピークの張り込みの時間を確保しにくくなったため、バス待ち列の計測をやめました。その後コロナ禍を経て、人流という言葉にスポットライトがあたり私も再び興味がわいたため、会社員をしながら可能なカフェからの混雑観察をはじめることにしました。

さて「混雑」とその場所での「人流」との違いは何でしょうか? 私は主観の有無と考えています。混雑には客観的なそのエリアに対する人の多さと、混雑に巻き込まれた際の隣の人との距離や近くの人の態度などの主観的(感情的)な意味合いとどちらも含みます。一方で、人流はその中で主観的な部分をなるべく取り除いたものと考えています。つまり人流はExcelのような表のデータにできるということです。また、人が滞在していたり待機していて流れがない場合でも、人流の一部だと私は考えています。

混雑にいる人を全て数えるのは容易ではありません。待ち列であれば順番が回ってくるまで動かないため先頭から最後尾までをカチカチとカウントすることはできますが、列にならずに歩いたり、入り乱れたりするとカウントは専用のAIカメラなどの機械を使わない限り困難です。そのため集める解像度をぼかして「多い」「少ない」の2分類にしたり、集める対象を絞ったりします。そうして集めたデータをいろんな方向性から見ると、それぞれの場所での混雑を比較できるようになります。

 

見ろ!人が〇〇のようだ…!

カフェから眺める人流を今回はカオス軸(横軸)と流量軸(縦軸)にとりマッピングしてみました。

 

 

カオス軸は一方通行、双方向、乱雑と段々歩行者の向かう向きの乱雑(カオス)性が高くなる見方とします。流量軸は通路の幅に対してどの程度の密度で人が流れてくるか、その密度がどの程度の時間続くかをみる見方とします。カオス軸は一方通行にも乱雑にもどちらも違った魅力があります。一方通行や双方向は流れる川が澱みなく流れる様子をぼんやりと群衆を眺めるとよいです。乱雑ではとある人に焦点をあてて行動を追うとよく、露天風呂の排水溝付近の葉っぱを取って水が流れる状態になる様子を見るようなイメージです。そのカオス軸の間で店や自分に合った解像度に合わせていくのが楽しむ秘訣です。
他にも人流を観測しやすいか、狙った時間に席に座れそうかというようなカフェの設備側の軸での検討も必要です。

一方通行で有名な品川駅港南口に向かう歩行者デッキや西鉄福岡(天神)駅の北口改札付近は特に淀みがありません。個別の人を目でおっても特に何も起こらず通りすぎます。ここではぼんやりと群衆を眺めるようにしましょう。列車が到着した後に流量が増えてそのあと減っていく様子を捉えることができます。品川のように流量が特に多い場合、ピークの時間帯は流量が常に一定となることがあります。

例えば東京の町田駅や大阪の京橋駅などの乗換駅の連絡通路は、JRから私鉄へ、私鉄からJRへと乗換する人が同じくらいいます。そこを眺める「人流観測cafe」を双方向に人流があるカフェとします。そういったカフェから人が通り過ぎる際にどのようにすり抜けていくかを眺めていると、完全に左側or右側通行にはならず、櫛型のように交互に人の列が入り組みます。

 

町田駅のカフェ

東京の秋葉原の昭和通り口に人流の滞留が見られるカフェがあります。歩行者の通り道が十字路になっており、写真手前に行くと電気街、右にJR改札、正面に地下鉄の入口、左にオフィスや飲屋街のところがあります。その位置を見下ろせるカフェからは色々な人間模様を観察できます。

 

秋葉原駅昭和通口のカフェ

地下鉄とJRが分かれる位置であることから、金曜夜には飲屋街から来た集団が解散する場所となっており、人流の障害物が生まれます。それを避けようとして渋滞が生まれたり、渋滞に気づいて集団が端に寄ったりとそれぞれの人間模様を観測できます。
また十字路になっていることから、東西方向と南北方向に行き交う人がぶつかりそうになる場面もあり、どのように避けるかぶつかるかとその後の対応を観測できます。

 

渋谷スクランブル交差点を眺めるカフェがおすすめ

渋谷スクランブル交差点は、JR渋谷駅とセンター街と呼ばれる繁華街とを斜め横断する人が多い歩車分離式の交差点で、スポーツの日本代表の対戦の時やハロウィンで多くの人が賑わいます。
歩行者用信号が青になると双方向に通過する人が多いため、行き交う人が櫛のように交互に列を作り通過していく様子が見えてきます。最近は歩行者用信号が青になった途端に交差点中央まで走っていき自撮りするブームがあるようで、その人を避けようと乱雑性が増しています。
2023年10月よりビルの改装工事の影響で閉店していますが、2024年4月にリニューアルする予定です。そこに渋谷スクランブル交差点を眺めるカフェが入ってくれること、今まで以上に人流が見やすくなることを期待しています。

 

 

人流は常に変化するものだからこそ

カフェから見る人流は、物や建造物と違い、常にそこにあり続けるものではありません。人流との出会いは一期一会です。数年から数か月ごとのトレンドとして季節変動やコロナ禍後の人流の流量の回復、週ごとのトレンドとして平休日での差、日ごとのトレンドとしてハロウィンなどのイベントや天候、列車遅延など色々な要素が絡んでその日の人流が形成されています。近年はビルの建て替えなどでカフェ自体がなくなることも多いです。一期一会であるため、人流の流量が多く、人流の見える席に座れるタイミングを求めるようになりました。名古屋の金山駅の改札上にあるcafeに休日に行ったときはほとんど人がいませんでしたが、平日朝ラッシュに行ったところ乗換客が地下鉄乗り場側に大勢吸い込まれていきました。時間ごとに景色が変わるため、現地での情報収集が大変で数値化が欠かせないのですが、時間ごとに景色が変わるからこそ常に新しい発見があります。人が、街が、世界が生きていて混雑していようともこの時間の必要がある合理性や不条理だったり、またその時間や場所で適用されている慣習(暗黙のルール)が自分の生活している圏内と異なったりしているところです。慣習は例えば左側通行か右側通行かなどです。
皆さんも普段からカフェなどで人間観察をしていると思いますが、そこに数えるという動作を加えてみてください。「こんな人がいた」から「こんな人が何人いた」に。数えてみて比較可能にしておくと、他の時間や他の場所に行ったときに新たな発見がありますので。