ファッション業界の中でも無類の古着好きとして知られるスタイリスト・原田学。彼が偏愛してやまないものは、色や柄、デザインにとにかく強い主張がある古着。ここでは、普通に着ていたら思わず「それ、本気?」とツッコまれそうなほど個性たっぷりのアイテムを紹介していく。原田曰く、「お笑いのボケがそうであるように、古着も斜め上であればあるほどかっこいい」。今回は原田の真骨頂ともいえる“リメイク古着”に迫る。

 

ワッペンでカスタムしたお気に入りのキャップ

前の持ち主って、どんなヤツなんだ?

私が普段好んで着たいと思う服は“主張のあるもの”。スタンダードなものを絶対に選ばないという訳ではないけど、どうしても派手な色や柄、デザインの服に惹かれることが多い。思い返してみると、小学生の図工の授業で紙粘土で作った人形にクレイジーパターンで彩色していたような子供だったので、「主張があるプロダクト好き」は生まれつきなのかもしれない。

それでも中高生の頃は流行の服に憧れて、人気のデザイナーブランドをかじっていた時期もあったし、ファッションスタイリストとして25年以上活動してきた中で「スタンダード」を学び、雑誌やメディアでもそうしたプロダクトを紹介してきた。だからこそスタンダードの良さもよく知っているつもりだが、一方で、世の中はそういう感じの「スタンダードなもの」で溢れている、ということにも気づいた。例えば定番であるボーダーTシャツであれば、時代は関係なく、とにかくたくさん見つけられる。何かひとつスタンダードなものが流行すると、誰もが同じようなものを作ろうとするからだ。そうして結局スタンダードなものが溢れかえってしまう。「ファッション」にこだわって生きているからこそ私は、そうしたスタンダードなものよりも、「珍しいもの」や「ひとつしかないもの」に価値を感じるのだ。

「オートクチュールって贅沢じゃないですか?」

オートクチュールと呼ばれる服が魅力的に見えるのは、一点ものであり、同じものを着ている人がいないからだ。また、色やデザインに強い主張があるものは、スタンダードなものに比べると選ばれにくいので、世の中に溢れることもない。だから、「他の人が着ないもの」をあえて選ぶことは、自分にとってのオートクチュールになるのだ。もちろん主張が強い服は合わせ方や着こなしが難しいのはもちろん、ひとつ間違えると異常に悪目立ちする恥ずかしさも付いてくる。それが分かっていてもいざ古着屋を訪れると、主張の強い洋服たちが「お前に俺は、着こなせへんやろ!」っていちいち挑戦状を叩きつけてくるので、「そんなもん、着こなしたるわ!」とつい買ってしまうのだ。で、買ってしまえばこっちのもの。

そんな私の服選びで欠かせないジャンルが古着である。基本はアメリカ古着。主張の強い楽しいアイデアが至るところに隠されているのが理由のひとつ。そのなかでも、誰かが着ていた古着をカスタム、またはリメイクしてさらに主張をプラスオンした服が好きだ。「パンツの膝が破れたから当て布をした」とか「胸に名前の刺繍を入れた」というシンプルなリメイクが良かったりする。それだけで「世界にひとつしかない服」になるから。

 

ワッペンはスポーツやカレッジロゴ、ご当地ものなど種類も様々

分かりやすいカスタムというと「ワッペン」が代表的で、1970~80年代くらいの古着にはワッペンでカスタムされたものが多い。縫い付ける以外に、アイロンで取り付けられるワッペンもあるので、手軽にできるカスタムのひとつである。私の場合、ボディ(ベース)となる服とワッペンを見ると、つい「どんな奴が着とったんや?」と持ち主のキャラクターを推測してしまう。例えばスポーツジャケットには袖に学校のロゴや地区チャンピオンのワッペンがたくさん付けられていたりすることが多いのだが、そこに野球とフットボールのワッペンが一緒に貼り付けられていたら、持ち主は野球もフットボールもこなす、運動神経のいい人だったのかもしれないと推測できる。そんなことに思いを馳せながらそのジャケットを着ると、野球もフットボールもやったことがないのに「俺チャンピオンやってん。凄いやろ!」っていう気分になれる。ボーイスカウトのベストにはさまざまな州や街のワッペンが付けられていることが多いが、これはおそらく活動に参加した証としてそれまで訪れた場所のワッペンを付けたのだと思われる。それを羽織れば、全米をくまなく旅したかのように、「アメリカのことなら何でも聞いてや!」って気分になれたりもする。

ただし、そんな思い出深い服を古着屋で見つけると「思い出の品をなぜ捨ててしまったんだ?」と少し寂しく感じるのだが、それならば彼らの代わりに自分がこれから長くファッションとして楽しんであげようという気持ちになるのである。

 

某タレントさんの衣装として作成したカスタムジャケット

自分でもワッペンで服をカスタムすることはあるが「どんなワッペンをどこに何枚配置するか」「どんな向きでどのくらい間隔をあけるか」「年代やジャンルを揃えるか揃えないか」など、いざやってみようとすると付け方にかなり悩むものだ。それでも、あえてテンションの異なるワッペンとボディを組み合わせて違和感を出してみたり、デッドストックのワッペンを紅茶やコーラで煮て、使い込まれたような風合いを出してくたびれたボディと合わせたり、自分好みのアレンジができるのがとても面白い。

そんな風にあれこれ考えながらピンポイントでカスタムするのも楽しいが、私はどちらかといえばとにかくたくさんワッペンが付いているのが好み。8年前、タレントの衣装として作ったのは、1960年代のシンプルなネイビーのブレザーに、スタジャンに付いてるような肉厚のワッペンをたくさん付けたカスタムジャケット。デザインはとても気に入ってもらえたが、本人からは「重すぎる」とつっこまれた。ついつい自分の好みに突っ走り、相手のことを全然考えていなかったと、反省しきりだった。それでも、あの衣装はめちゃくちゃカッコよかったな…。

あえて解体。唯一無二の新しい価値をつくる。

 

ショーツじゃなければ20万円以上する、リーバイスの501“ビッグE”(1960年代後期モデル)

自分でカスタムするから、当然、古着の見方や買い方も他の人とは違っている。古着屋でワッペンの付いたジャケットを見つけたら、まずはワッペンを外してボディのジャケットはソリッドに着る用に、外したワッペンは手持ちの別の服に付け替えるつもりで購入するなんてことも多い。そういう古着はカスタムやリメイクの素材として見ているので、色やサイズはほとんど気にしない。それよりもこの服が「これからどんな姿になるのか」「どういう使い方ができるか」ということを想像しながら選ぶようにしているのだ。

少し前に、股下ギリギリの丈にカットオフされたリーバイス501を購入した。ビッグEと呼ばれる1960年代後期のモデルで、デニムの色がとても素晴らしかったのだ。カットされていないものであれば20万円以上はするのに、ショーツの状態だとたった1万円前後。「股下の左右の足部分が19万円以上なのか?」って考えると個人的には全く納得いかないけど、それが今の市場価値なのだ。そもそも私はショーツをほとんど穿かないので、このジーンズは別のジーンズをバラしたパーツとパッチワークするために購入した。

 

以前、古着屋で購入した70年代のパッチワークデニム

パッチワークジーンズは特に1970年代頃にたくさん作られていて、おそらくヒッピームーブメントの影響で流行したと思われる。私も数本所有しているが、どれも1970年代にカスタム、リメイクされたものなので、1960年代やそれ以前のビンテージジーンズを解体し繋ぎ合わせて作られているものばかりだ。ほとんどがビッグEやXXモデルの旧い生地なので、ビンテージマニアにとってはたまらないだろう。パッチワークのデザインは多種多様で、長方形の生地をパッチワークしたものやジーンズのウエストバンドだけを繋ぎ合わせたものなどそれぞれ個性がすごすぎるので、見ているだけで圧倒的なパワーを感じる。さらにジーンズをバラして繋ぎ合わせるという工程はとにかく労力がかかる。そんな異常な手間と自由な感性によって作られたパッチワークジーンズは、普通のジーンズの何十倍にも魅力的に感じるのだ。パッチワークものは、古着を好きになった頃からずっと買い続けているし、当然、自分でも作り続けている。

 

変な色落ちをしている505 ビッグE

前述したように手間の掛かったものではなく、簡単なカスタムを施しただけのアイテムも愛している。例えばジーンズを8部丈くらいに雑にカットオフしただけのものでも、子供の落書きのようなラフなペインティングが施されたものでも、どれも個性的なカスタムであることに変わりはないので、やっぱり履いてみたくなる。

これだけ古着のことを語ってきただけに「シンプルなビンテージジーンズだって何本も持っているよ」って言いたいところだけど、実際に持っているリーバイス501XXはなぜかセンタープリーツが入っているものだったり、同じくリーバイス505のビッグEは、前面は色が濃く残っているのに裏側の右足部分だけ薬品が掛かったような変な色落ちがあったりと、やはり何かしら謎の主張のあるものしか持っていないのである。

古着のほとんどはそもそもが「一点もの」だけど、カスタムやリメイクすることによってさらに「正真正銘の一点もの」となる。私はそこに一番価値を感じる。当然それがイケてるかイケてないかという判断基準は時代や気分によっても変わるものだから、「次はどんなカスタム古着が見つかるだろう?」と今日も古着屋を巡りながら、これからもずっと、他の人とは違った視点で古着を買い続けるのだ。