純喫茶や猫をはじめ、こよなく愛するものを惜しみなく発信するモデル・文筆家の小谷実由。「好き」な気持ちを大切に日々過ごす彼女が今、無我夢中で収集するほど偏愛しているのが<櫛>。連載の合間にもその数は増え、現在は200本超え。連載最終回は、目標の940本まで、いやそれ以上に続くかもしれない、櫛とのこれからのこと。

 

 

早いもので今回が最終回。私の櫛談義にお付き合いいただきありがとうございました。現在の収集数は234本。書き始めた頃よりほんの少しだけ増えました。相変わらずいろんなところから増やされていく私の櫛コレクション。最後に、私と櫛の歩むこの先をちょっと想像してみたいと思います。

物を収集する人には、2種類のパターンが存在するらしい。
際限なく延々と集め続ける人、ひとつひとつに目標値がありコンプリートしたらまた別の物を集め出す人。私は940本という目標値を掲げてはいるものの、間違いなく前者だと思う。節目の目標本数があった方が収集活動にもメリハリが出る気がするし、人に櫛収集の何かを問われた時に説明がしやすい。でも、きっと940本集まったからといってその数字だけでは満足するような気配もないし、面白いものや自分の心が震える櫛が存在すれば1000本になろうが1940本になろうが、9400本になってもきっと収集の意欲はとめどない気がしています。

 

猫もうっかりくつろいでしまう雑然とした櫛の群れ

 

365日の中には、節分があったり、自分が今の仕事を始めた記念すべき日があったり、クリスマスがあったりする。そんな年中行事のような気持ちで目標本数を設定している感じ。その本数まで集めたら、この活動をしみじみと振り返る気持ちになる。そして、どうしてこんなに櫛に惹かれるのかを延々自問自答しながら集まった櫛たちを愛でるのでしょう。

そんなどんなことがあっても必ず訪れる年中行事のように、人生を一緒に並走する存在である櫛。私は行事を楽しむことが好きなので、節目節目の本数にも意識を配りたいと思います。

 

記念すべき940本目は、決め込まずでいい

さて、現在の目標本数である940本目の櫛はどんなものになるでしょうか。100本目の櫛のように憧れを込め狙いを定めてどこかの櫛を手に入れるのもいいかもしれない。100本目の時は憧れが強かったものが存在したから記念としてそのタイミングに(正確にはそうなるように操作して)手に入れることをしたけど、それはあまりにも自分の中での想いが強く特例で、現在はあの100本目の櫛のような光りを放つ憧れに包まれた櫛をまだ知らない。それに、主に櫛を集めるときに楽しんでいるのは、たまたまの出会い。訪れた場所で出会ったものから好きだと思うものを集めたり、誰かが自分を想ってくれて贈ってくれた物をその想いも込みで、好きになる。この先もきっとたまたまの出会いに面白さや運命を見出していく集め方をしていくと思う。

だから、気付けばこれが940本目だね。と、偶然940本目を冠する櫛が現れる方が現実的に想像しやすい。一体どんな櫛が940本目の冠を手にするのか楽しみです。強いて言えば、自分の足でどこかの国で手に入れたりする思い出に包まれたものであったら嬉しい。私は櫛自体の存在も好きだけど、そこに付随してくる手にしたときの思い出なども合わせて愛しているから。

 

これからも櫛は集まり、そして集めにいく

これからも気付いたら櫛が集まってくるスタイルで、収集は続いていく。しかし振り返ってみると、この連載に幾度も登場している友人Aちゃんの存在が偉大すぎる。もはやこれは私だけのコレクションではなく、私とAちゃん2人のコレクションなのではないかと思うほどだ。私の収集活動は彼女によってとても充実している。彼女は私の櫛収集活動の右腕的な存在です。最近は彼女が日本に来ることが多いけど、いつか彼女と様々な国を共に旅して櫛を収集したい。2人いればきっといい出会いも2倍になるはずだ。

 

Aちゃんがくれた最新の櫛。こ、この形は…!?もうNO Aちゃん NO 収集ライフである。

 

ちなみに彼女やそのパートナーはブックオフなどの中古CDや本が売っている場所が大好きで、先日来日していた時も中古CDを買ってスーツケースに収まり切らず、それを持ち帰るための新たなバッグを買い足して帰国した。

私もいつか櫛を持ち帰るためだけのバッグを買い足して帰国してみたい…そんな魅力的な櫛がたくさんある国はどこにあるだろうか。やっぱりシンガポールのムスタファセンターか、もしくはThe Storeかもしれない。The Storeとは、一度だけ訪れたことがあるマレーシアにある食材や日用品などの雑貨も売っている大きなスーパー。ムスタファセンターほど難解な作りではないが、大きなフロアに広がる陳列棚は壮大だった。当時訪れた時間がオープン間際だったからか、来店した客が私たちしかおらず、エレベーターを登ると大勢の店員さんたちが並んで大歓迎してくれたことがあった。ムスタファセンターと同じく、The Storeも棚一面が櫛!という素敵な景色が広がっていたのを覚えています。大歓迎ムードに気分が良くなりなんだかセレブのような気持ちで、購買意欲にも精が出た。

 

The Storeにて買い物後。お店特製のエコバッグもかわいい。これを満杯にするくらい収集したい。

 

このエレベーターを登ると、まるでセレブが来店したかのように棚一面・櫛でお出迎えしてくれる。

 

しかし、日本では美容用品の問屋でしか見たことがないような圧巻の景色が、他の国に行くとどうして普通に広がっているのだろう。そして驚くべきことに、大展開されてるわりに私以外に櫛を買ってる人を見かけたことがない。もちろんたまたま見かけていないだけだとは思うけど、やっぱりそんなにたくさん櫛いらないよね普通。壊れたら買い換えるくらいしかしないよね。しかもそんなに壊れない。櫛収集をする人間に優しい国だなとありがたみを感じています。今後もどうか大展開を続けてほしい。私は、どんなに景色が良い場所や大自然が広がるところよりも、平然と棚一面に櫛が広がるような店に何度も行きたいです。

 

たくさん買ったなぁとこの写真を撮った当時は思っていたけど、今ではこんなの序の口だなと思ってしまう。収集すればするほど自分の購買数のハードルも上がっていく。

 

櫛の部屋に憧れて

そんな夢物語もいいけれど、リアルなこの先として時に心配、時に真剣に楽しく考えているのが収納。今は大きなボックスにガサっと溜め込んでいる状況。少々整理が困難になってきている。幸い櫛はとても薄くかさばらないので、ある程度の大きさの箱であればたっぷりと収納することができる。ただ、こんなにたくさんの魅力的なものが、毎度取り出して並べる楽しみはあるものの、雑多に収まっていていいのかとも考えます。

私が憧れているコレクションを楽しむ人は、消しゴムを2万点所持しているタレントの楠田枝里子さん。消しゴムは温度や経年の変化に弱い。楠田さんはお家に消しゴムの部屋が存在しているそうで、空調や室温、照明などの管理をまるで美術館のように徹底されているそう。愛と情熱がひしひしと伝わる。この話を聞いてから私が最終的に目指したいのは櫛の部屋に決まりました。青梅市にある櫛かんざし美術館(現在休館中)に行った時も、ガラスケースに陳列され一番美しく見えるような光を当ててもらい輝く歴史的な櫛たちを見て羨ましく思った。櫛の部屋、櫛美術館。どちらもすぐには実現し難い。

そこで、直近でやってみたいのは月替わりで家のどこかにお気に入りの櫛を1つ飾ること。全ての櫛に毎日目を通すことは難しくても、お気に入りに日々少しずつ目を通す行為としてはとても最適なのではないかと考えました。まずは一緒に暮らす夫に家に櫛を飾っていいか交渉するところからです。お家櫛美術館開催中。

 

こちらは記念すべき第1回目。これは100円ショップで入手した、ハニーオイル配合櫛です。形が素晴らしい。

 

ロマンチックな存在は誰にでも

私はまだまだ、櫛と人生を並走し続けそうです。たとえ、すでに持っている種類のものが自分の元へやってきても、手にした状況が違えば別のものとして見ることができる。櫛を集めることで出会えた瞬間や深まった人との関係があまりにも多い。それは他の誰とでもなく自分だけが密かに噛み締めながら楽しみ、喜び、人生の一部としてこの先も思い返す大きなひとかけらになっている気がします。もし940本集めて気が済んだとしても、それらを手放すことはあまり想像できない。そこまで大事に積み重ねてきた思い出をなくすことは難しいからだ。

もうすでに私の中で櫛とは梳かしても梳かしきれない繋がりができてしまっている。たまたま私にとってはそれが櫛であったけど、こんな風に自分の歩んできた日々を大切に思わせてくれる存在は誰にでもあるんじゃないかと考えると、ロマンチックだなぁと思います。

最後に、もしも今まで読んでくれて櫛が少し気になったという奇跡の人へ。まずはお近くのドラッグストアか100円ショップへどうぞ。気になるな~と思うものがあったら是非手にして光に当てたり、隅々まで眺めてみてください。もちろん身だしなみとしても重宝するのでおすすめです。