「爪」という小さなキャンバスで表現し続ける、爪作家・つめをぬるひと。彼女が生み出す「爪」は、いわゆるネイルとはどこか違う。爪を塗る行為に魅了され、気づけば活動10周年となったいま、改めて「爪を塗ること」について考えてみる。第四回は、爪と楽しむ食べ物の話。

爪を塗ると、塗った瞬間だけでなく、その後の日常にも楽しいと思える瞬間が生まれる。手が視界に入るタイミングはいくらでもあるけど、中でも私が特に好きなのは「飲食物を手に持った瞬間」だ。

手に持つドリンクのカップのデザインに興味が湧いたのも、珍しい食べ物を見つけると手に持ってみたくなったのも、爪を塗り始めてから。飲食物を手に持って写真を撮っていると、「とてもベタなことをしている」という自意識がよぎるけど、自分の好きな爪が一緒だと、なんだか心強い。この爪で、この飲食物と一緒にいることは一生に一度。せっかくだから撮ってあげなきゃ。と思ってしまう。可愛い我が子を撮る親の心に近い。

今回は番外編ということで、爪と一緒に撮った飲食物の写真を紹介する。

 

アイスと爪

野菜や調味料を販売しているショップ「青果ミコト屋」のアイスクリーム。

 

飲食物と爪の写真を撮る際に「飲食物に合わせて爪を塗る(もしくは爪に合わせて飲食物を選ぶ)」というのを想像されるかもしれない。

実際にこの写真は、アイスや壁の色と爪の色がまあまあ近いので、爪に合わせてアイスを選んだのかと思われるかもしれない。

例えば、人からお土産でお菓子をいただいた時に、そのお菓子に合わせて爪を描いて写真を撮ることはあるけど、爪の色が合っていなくても写真を撮る場合もあるし、時間に余裕がない時は爪も塗らずに食べてしまう。

自分の爪を塗る時間は、つけ爪制作に比べるとプライベート感が強い。色選びに縛りを設けたくないし、塗った爪にたいして「このお菓子とは色が合わない」なんて思いたくないので、「絶対に色を合わせる」というこだわりは持たないようにしている。飲食物と爪があればなんでもいいと思って撮っているので、普段はちぐはぐな写真のほうが多いけど、だからこそこの写真のように、たまたま選んだアイスと爪の色が近い瞬間は嬉しくなる。

 

抹茶ラテと爪

東京都現代美術館の2階にあるカフェ「二階のサンドイッチ」。カップのデザインの中で一番好き。

 

テイクアウトで出てくるカップは白黒でプリントされている店舗が多いなか、ここのカップは白黒以外の色が施されている時点でもう嬉しい。抹茶ラテを注文したらこのカップで出てきて、ピンクのモチーフに抹茶の緑が映える様子に感動した。爪の淡いミントグリーンも、このカップに添えると抹茶ラテらしくなる。

 

羊羹と爪

石川県金沢市で購入した羊羹「金澤文鳥」。

 

飲食物に合わせて爪を塗る、ということはあまりしないけど、旅行の時はなんとなく目的地の雰囲気に合わせて爪を塗っているような気がする。この爪は、昨年の秋に金沢へ行く前日に描いたもので、金沢駅の入り口にある「鼓門」をイメージして描いた。

 

梅ジュースと爪

「プラムハニップ」という梅ジュースが大好き。

 

関東では買える店舗が少ないため、たまに見つけると買ってしまう。
この日は夏の暑い日で、爪も夏らしい色にしていたら、この梅ジュースを見つけて、もう爪が梅の色に見えてきた。味も好きだが、このパッケージのインパクトもたまらない。ずっと変わらずにいてほしい。

 

大福と爪

京都の「出町ふたば」という和菓子屋で購入した福豆大福。

 

数年前に京都へ行った際に、出町柳駅まで歩いていると、ものすごい行列が。人の隙間から覗くと、そこに黄色い豆の大福があった。見たことがない色の大福に興味が湧いた私は、列に並んで購入。どこか座って食べられる場所はないかとしばらく歩いていると、鴨川沿いにベンチを発見。その時に撮った写真がこれ。
爪は京都へ行く前日に描いたものだが、あとから見ると「川沿いに座って食べる大福」に見えなくもない。

 

最中と爪

熊本の「珈琲回廊」というお店で、虎の形をした炭の最中を食べた。

 

全体的に黒で統一された店舗。黒いのは最中だけでなく、竹炭を使った白黒のカフェオレもあった。
白黒に囲まれた空間に、爪の色がやや奇抜に交わる。

 

ホットドリンクと爪

スープストックでテイクアウトした時のドリンクカップがこれだった。確か数年前の年始だった。

 

今も同じデザインなのかは分からないけど、このカップとそれを持つ手の爪が優しい色というだけで心はほぐれた。
一年の始まりにちょうど良い、暖かい飲み物と言葉と色。

描いた爪が日常と交差する瞬間は気分が上がる。
爪と飲食物の色の組み合わせは、写真を撮っている瞬間は意識していないことが多い。のちのち見返して「なんとなく色が合っている気がする」と気づくことがある。今回選んだ写真も、ほとんどがそういう写真だ。

飲食物だけを写真に残すのもいいけれど、好きな色で塗られた爪が一緒に写っていると、楽しみ方も一つ増える。配色がちぐはぐであっても良くて、「このお店に行った時、私の爪はこういう柄だった」と思い出せることもまた、爪の楽しみ方の一つだと知った。

最近は、爪に何も描いていない状態で良い感じの飲食物に遭遇すると「描いておけばよかった」とすら思ってしまう。爪を描いて休日を迎えると「せっかく描いたし、少し遠い飲食店に行ってみるか」という気持ちになることもある。

爪という動機で外出したくなる。爪が私を外へ連れ出している。私にとって、爪はそういうものでもある。