パンダを観察し、撮影するために10年以上、上野動物園に通い続ける高氏貴博。ブログ『毎日パンダ』は書籍化され、その他にもパンダの写真集なども手掛けている。パンダにハマったきっかけから、10年以上撮影を続けてきた現在まで。魅了されたきっかけと、昨今のパンダ界の動向までお聞きした。

 

だらーんと寝ていたパンダがいた

2011年8月、たまたま立ち寄った上野動物園で私はパンダと運命的な出会いをしました。それ以来、上野動物園に通い詰めた理由はパンダのユニークさに惹かれたのと、年間パスポートの安さ(笑)。しかしこの年パスは侮れないもので、これがなかったらきっと今日まで毎日通うことはなかったでしょう。私にとってはパンダといつでも繋がっていられるお守りのような存在です。お財布は忘れても年パスだけは忘れたことはありません。

 

シャンシャン

そこで出会ったパンダというのはシャンシャン、シャオシャオ、レイレイの親であるリーリーとシンシンです。2011年に来園、公開されたリーリーとシンシンは、震災の直後でまだ日本が暗く沈んだムードにあった中でしたが、唯一といえるくらいの明るい存在でした。パンダといえば長い行列に並んでちょっとしか見られないというイメージですが、それは当時もそうで、ちょうど夏休みだったこともあり、30分程度の行列に並んだ先に、だらーんとゆるい感じで寝ているパンダがいました。すごく可愛いパンダを想像していったのですが、可愛いだけじゃなくて、このゆるさに大いに惹かれたのでした。次に並んだときにはおもむろに起きてお客さんの方に向かって食べ始め、抜群のサービスでお客さんを楽しませてくれていました。このオン・オフがはっきりしていて、並ぶたびにいろいろな姿を見せてくれるのが面白くて、何度でも見たい、明日も見たい、ずっと見たい、そう感じて毎日通う日々が始まりました。

 

シャオシャオ&レイレイ

 

毎日パンダを見守ることに

誰に頼まれたわけでもなく、生活の糧になるわけでもない毎日のパンダ通い、なぜ今まで続いているのかと聞かれることが多いのですが、スタートからずっとブログを通じてパンダの写真を毎日アップしていて、それを見てくれた方とかわいいを共有できるというのも大きいポイントです。「上野にはこんなに可愛いパンダが暮らしている、みんな見てみて!」という思いが原動力です。遠方に住んでいる方にも届けることができるというのはネットならではの利点です。そして、実際に見に来ちゃいましたという嬉しい出会いもたくさんありました。パンダを通じて世界がどんどん広がります。それがいまでは国際交流にまで発展しました。パンダの本場、中国の方ともたくさん素晴らしい出会いがありました。本場の方に知ってもらえるのはとても嬉しいもので、ここまで輪が大きくなるとは思っていなかったので嬉しい限りです。これから先、パンダ界がどのように成長していくのか、世界中の方とずっとずっと見守って行きたいです。

 

シンシン

 

パンダの成長を見届ける

パンダは動物、人間と同じく成長して家族を作っていくものです。この様子を追うことができるのが活動を長く続けることの意義だと思っています。最初に出会ったリーリーとシンシンは5歳でしたがいまや18歳になりました。まだ幼くてお庭で遊んでいたパンダがすっかり大人の風格がぷんぷんするようになりました。その間3回の出産を経て、シャンシャンとシャオシャオ&レイレイの双子がすくすく育っています。パンダの社会的関心事はこの子どもについてがとても大きく、リーリーとシンシンに赤ちゃんが生まれたらニュース速報になるくらいです。最近では子どものシャンシャンが中国に旅立っていたのがとても大きな話題になりました。生まれた子どもはいつか故郷に帰らなくてはいけない決まりなので、双子のシャオシャオとレイレイもいずれは旅立っていくことでしょう。パンダたちの将来を考えたら家族を作るためにはパートナーと出会える環境に旅立つのがベストだと思いますので、旅立ちは仕方ないこと、むしろ明るい将来に向かって全力で背中を押してあげたいことです。もちろん旅立った先にもたくさん会いに行きたいです。実際、2023年の11月にシャンシャンが暮らす中国で再開を果たし、幸せそうに暮らしている姿を見ることができて感無量でした。直近の話題としては、シャオシャオとレイレイがいつ旅立つのか、シャンシャンがパートナーと出会うことができるか、リーリーとシンシンにまた赤ちゃんが生まれるか、などなど、パンダ界からはまだまだ目が離せません。

 

好きを追い求めるということ

話はパンダから少し離れますが、私は一つのことにとことんはまって、それがずっと続くという事が多く、パンダの他に小学生のときから続いているレコード収集もこれにあてはまります。このような活動をしていると、ひとつのことを突き詰める方との横のつながりも広がります。お茶、仏像、美術、音楽など、一生物の仕事や趣味にしている方々、みなさん共通しているのは時間とお金の使い方が上手な印象です。仕事と趣味を両立するには時間とお金のやりくりが重要で、そのバランスがうまくとれないと立ち行かなくなります。そんな突き詰めた趣味が1つではなく2つ、3つ掛け持ちしている方が意外にも多いのもポイントです。趣味や仕事が複数あれば、どこかで挫折することがあっても私にはこっちもあるからその方向に向けば大丈夫と開き直ることができます。有限な人生の中で、時間とお金、そしてメンタルを保つことができるのが深く突き詰めた趣味だと思っています。お金がかからない趣味もたくさんあります。パンダ通いもかかるのは年パス代と交通費くらいです。(写真を撮るならカメラ代も)。まだ突き詰めるような趣味に出会っていない方も、そのうち突然出会うかもしれませんので、散歩がてらキョロキョロしてみてほしいです。実際私も30を超えてから、散歩をしていたら突然パンダに出会いました。一生物の趣味との出会いとはそんなものです。

 

レイレイ

 

パンダは一生

上野公園をぶらぶらしていたある日突然始まったパンダ通い。これが毎日の日課になって13年目になりました。こうなったらもう一生続けたいです。突き詰めると言ってきましたが、時間とお金を全力投入する必要はありません。むしろそれだと息切れをして続かない可能性が高いかもしれません。パンダのようにだらーんと力を抜いて、でもやるときにはやる、そんなオン・オフがある程度できれば十分だと思います。世代や職業を超えて様々な方との出会いもあるのが趣味の醍醐味でもあります。まだ趣味に出会っていない方も、なにか趣味をお持ちの方も、ぜひ一生続くような人生の宝物として突き詰めてみてはいかがでしょうか。