80年代のバブル期、若者を中心に爆発的なブームを巻き起こした<スキー>。いまでも冬の定番アクティビティとして楽しまれているが、『もっともっとスキーの楽しさを知ってほしい!』と伝えたくてたまらない人、それは編集者の渡邊卓郎。多くの人にこの想いを届けたいがあまりフリーマガジンまで制作を始めた彼が、ここでも思う存分魅力を語ります。第四回は、公私共に数々のスキー場を訪れた彼がお気に入りのスキー場の話。

 

 

スキーに行ってみようかな? と思った方にとって、ギアの心配に加えて現れるのが、「いったいどこのスキー場に行けばいいんだろう?」という不安だと思います。たくさんありますもんね。スキー場って。

日本にスキー場がいくつあるか知っていますか? 2024年現在、日本には489のスキー場があるそうです。北は北海道、南は宮﨑(!)まで。南北に長く山々が連なる日本には実に個性豊かなスキー場があるのです。

スキー場なんてどこも一緒でしょ? と思う人もいるかもしれませんが、そんなことはまったくありません。スキー場の立地(緯度や標高、海からの距離など)によって雪の降り方や雪質は異なりますし、山の地形や木々の植生によって風景も異なります。さらに、スキー場の斜面の向きによって風を受ける向きも変わるので雪の積もり方や滑りに適したタイミングも異なるのです。山の違いに関してかなり大まかに言うと、日本の代表的なスノーエリアである北海道と長野では、北海道エリアの山はたおやかで比較的なだらかな斜面が多いのに対して、長野の山々は急峻な山々が多いので急斜面が多くなるなど、雪山の景色も大きく異なります。そんな自然条件の違いに加えて、スキー場インフラの違いもあります。ゴンドラの快適度や、ゲレンデグルメの満足度、施設の充実度なんかによっても、スキー場の個性は異なるというわけです。

とにかく! スキーを始めたばかりの人にこそ、よいスキー場に出合って欲しいのです。スキー場との相性は、スキーが断然楽しくなる大切な要素ですからね。ということで、かなり個人的なセレクトにはなりますが、僕のおすすめスキー場を紹介させてもらいます。

 

滑ってよし、呑んでよしの旭川は、天国



僕が一番好きなスキータウンは北海道の旭川。旭川を拠点にすると、その日の気象条件や気分に合わせていくつものスキー場を選ぶことができます。

その中でもおすすめなのは、カムイスキーリンクス。雪質が良いことで知られる北海道の中でも、特に道北エリアの雪はよく乾いて軽いから、雪が降った時はもう最高のパウダースノーを堪能できちゃいます。たくさん積もった軽くて細かい雪の中を滑る感覚は、あくまでもイメージですけど、空に浮いているような感じなのです。これ、是非とも体感してほしいフィーリングですねえ。

でも、たとえ雪が降らなくても最高なのがカムイスキーリンクスのすごいところなんです。何せ気温が低いから、日中になっても雪が溶けません。これがどういうことかと言うと、厳冬期であっても気温が高くなるエリアのスキー場だと、朝に圧雪車がコースを整えてくれても気温が上がり、多くの人が滑ることによって昼にはコースがベチャベチャ&ガタガタになってしまうのですが、ハイシーズン中の平均気温がマイナス気温のカムイスキーリンクスでは、コースが荒れることなくずっと斜面が綺麗なままなんです。この綺麗なままで滑っていて引っかかりのない斜面は一本滑れただけでも気持ちいいのですが、これを1日中堪能できるなんてなかなかないことなんですよ! まさに寒さがもたらしてくれる贈り物ですね。

カムイスキーリンクスで気が済むまで滑ったなら、市内のホテルに帰って風呂に入ってビールを飲むのもいいけれど、あと少し体力に余裕があるのなら、サンタプレゼントパークのナイタースキーという流れも超おすすめです。ラーメンの替え玉か? はたまたサウナのおかわりワンセットか? とにかく、旭川のスキーを詰め込んじゃいましょうよ! 限界を超えた先にしか見えてこない悦びが待っているはずです。サンタプレゼントパークは旭川の町から約15分という立地なので、夜景を見ながら滑ることができちゃうんです。スキー場自体は小さいのですが。美しい夜景を眺めながら、ライトに照らされたゲレンデを猛スピードで滑る時間は最高です。

 


朝から夜まで十分すぎるくらいに滑った後には、旭川に無数に点在する美味しい北海道グルメが待っています。旭川ソウルフードの新子焼き(若鶏の半身焼き)を食べるのもいいし、旭川ラーメンも最高です。素晴らしい居酒屋もビールスタンドもありますし、アフタースキーの食べ飲み歩きが充実しているのも、旭川が大好きな理由です。



僕と一緒に「SKI CLUB」を作っている友人の編集者は、毎年スキーシーズンになると旭川でリモートワークをしながら滑って、飲んで、サウナに入ってという日々を満喫しています。確か昨シーズンは3週間ぐらい旭川に滞在をしていました(笑)。

 

首都圏在住の皆さん。雪が降ったら尾瀬戸倉です

北海道は飛行機に乗らないと行けないし、ちょっと遠いなあと思っている首都圏在住の方におすすめなのは群馬の尾瀬戸倉スキー場です。東京からなら車で3時間ほどの距離です。

「戸倉はすいてる」がキャッチコピーになっているスキー場なのですが、確かにハイシーズンの週末でも比較的すいていると思います。





尾瀬戸倉の何が楽しいって、地形が楽しいんです。滑る人たちは「壁」と呼ぶのですが、その名の通り天然の山の地形がすり鉢状になっていて、コースの両側の壁に当てて滑る、地形遊びがめちゃくちゃ楽しいんです。広い斜面でスピードを出すのもいいのですが、この地形遊びはサーフィンで波のフェイスを使ってターンをする感覚に似ていますね。

そして、僕が尾瀬戸倉が何よりも好きな理由は、ハイクアップエリアがあること。バックカントリーっていう言葉を聞いたことがあるかと思いますし、ハイクアップと聞くとバックカントリーのこと? と思う方もいるかと思いますが、その入り口みたいな感じです。

バックカントリースキー(整備されていない雪山を自分の力で登り、滑ること)には様々な道具が必要になるのですが、尾瀬戸倉のハイクアップエリアはそんな装備は必要なく、お手軽に安全にバックカントリー気分が味わえるというわけです。スキー場上部にある現在は稼働していないリフトが架けられたコースへのアクセスルートを雪上車が整地して歩きやすくしてくれていて、板を担いで20分ほど登ると、そこには圧雪することなく雪が残された非圧雪ゾーンが広がるのです。





ハイクアップの斜面はそんなにキツくないので、子どもの足でもちょっと頑張れば板を担いで登ることができます。前日に雪がたくさん降った翌朝には、フワフワの雪が斜面を覆って、自分が思い描いた通りにどこまでも自由に滑ることができるんです。これ、本当に気持ちいいですから!

僕も雪が降ると、息子を連れて尾瀬戸倉を目がけるのですが、明け方まで雪が降り、滑る頃には雪が止んで晴れるなんて具合に条件が整った時には、心の底から喜びが湧いてきますね~。目の前には誰も滑っていない降り積もった雪の斜面! そこに自由に一筆書きで線画を描いていくようなイメージで滑るこの快感はぜひ味わっていただきたいです。

 

白馬五竜のナイターは脳内にいろんなものが溢れ出ます




もう一つ好きなスキー場は白馬のエイブル白馬五竜。しかも夜の五竜です。ナイターってそれはそれは美しくてワクワクするんですが、僕の中でのナイターの最高峰はエイブル白馬五竜です。何がそんなにすごいかって言いますと、ナイター営業前に圧雪車が入って、ゲレンデが整備されるんです。この圧雪が見事なクオリティなのです! 高級ホテルのベッドメイキングのように、ゲレンデが見事に整えられます。

だから、日中にどれだけたくさんの人が滑り倒してゲレンデをぐちゃぐちゃにしたとしても、一度綺麗に、ピシッ! と、ピカピカにリセットしてくれるというわけです。スキー場さんの愛ですね。





ライトに照らされて整ったゲレンデはキラキラと輝いています。ナイターオープン時のリフトに並んで1番前を確保できたりなんかしたら、もう最高ですね。リフトが動くまでの時間は、喜びと興奮を隠すのに必死です。大好きなサウナに行ったら誰もいない貸切状態なことがわかって、嬉しくなって、誰もいないのにものすごい速さで服を脱いでいる時以上の喜びです。例えがなんだかよくわかりませんが、とにかく素晴らしい世界を前にしているっていうことなんです!

綺麗に整地された斜面はスキーが引っかかることがないから、どんどんスピードが出せて、ターンをする時に雪を削る音が聞こえてきて、素晴らしく気持ちいいのです。心の奥底から喜びが溢れてきて、抑えきれずに声が出ちゃうんですよね~。頭の中で何か弾けて、何かが大量に分泌される瞬間を味わえます。

綺麗に整えられたコースを滑るも良し、またはコース脇につくられた雪が波のうねりのようにデザインされた「GORYU WAVE」というパークゾーンを滑るも良し。白馬の夜は五竜です! ぜひ。
 

▽スキー場の数について情報元

https://skibumpslabo.com/archives/2908