ファッション業界の中でも無類の古着好きとして知られるスタイリスト・原田学。彼が偏愛してやまないものは、色や柄、デザインにとにかく強い主張がある古着。ここでは、普通に着ていたら思わず「それ、本気?」とツッコまれそうなほど個性たっぷりのアイテムを紹介していく。原田曰く、「お笑いのボケがそうであるように、古着も斜め上であればあるほどかっこいい」。今回は、ベースボールシャツなどのスポーツウェアについて語り尽くす。

メジャーではなく、マイナーでローカルなユニフォームに惹かれる

私自身が好きな主張ある洋服は、カスタムやリメイク古着以外にも色々とあり、スポーツウェアの中のユニフォームもそれに該当する。みなさんがユニフォームでイメージされるのは、アメリカのMLBやNBAのレプリカシャツなんかだと思うけど、そういうのは意外と着ていないのだ。普段観てもいないチームのユニフォームを着ていて、街で誰かに「お前も好きなんか!俺も同じチーム応援してるで」なんて声を掛けられたらどうしようってビクビクしないといけないから。だからこそ、昔のローカルで無名なチームのユニフォームの方が自分はベストで、正直アメリカのどこかの会社の野球チームが揃えたユニフォームのような、誰も知らないものにこそ価値があると勝手に思っている。

ベースボールユニフォームはシャツだけでなくパンツも穿いている。パンツは、1950年代頃までのものは丈が異常に短く裾がゴムでギュッと絞られているので、バルーンパンツみたいな形をしていて、どう見ても穿きこなすにはハードルが高過ぎる。しかし、ハードルが高いほど自分は「穿くに決まってるやろう!」とおしゃれ欲を掻き立てられるので、結構な頻度で穿いている。動き易さもあり自転車に乗るのにも丈がちょうど良いのだ。利点はそれくらいしか無いけど…。でも、ハイソックスやサッカーのソックス合わせてみたりして、最初は「野球にサッカーは混ぜたらあかんやろ」って思っていたけど、サッカーのソックスはカラバリが豊富なので色合わせが楽しい。
 1960年代頃のベースボールシャツとパンツのセットアップも結構持っていて、普段から上下セットで着ることもある。もちろん野球はやらない。やりそうな雰囲気だけ出して仕事に行ったり遊び行ったりしている。15年くらい前は、コスプレじゃないんだからと中にストライプのB.D.シャツを着て、足元はブーツを合わせていい感じに着崩していたが、ここ数年は中にスウェットや長袖Tシャツ合わせていてそれっぽく見えてしまいそうな時もある。スニーカーを履いてしまえば、ほぼ野球選手だ。

 そんな格好の日に近くの駅に行くと、なぜか学生や社会人の野球チームが大勢集合している。その中を通り過ぎようとすると自分の方を見ながらニコニコする人がいて、「コンビニっすか?コンビニっすか?」って自分に声を掛けてきた…。もちろん目線を合わさず無視するしかない。頭の中で「何で?何や?何を間違えてんねん」って言いながら知らないふりをしてその場を過ぎ去る。駅の改札を抜けて距離が離れてから振り返ってみると、彼のチームのユニフォームと自分が着ていたカラーが似ていたのだ。似ているだけでデザインもだいぶ違うのにと自分では思うのだが、彼にとっては同じに見えて同じチームの先輩と勘違いしていたのだろう。その時は「ああヤンキースやドジャースみたいなチームのベースボールシャツを着ていたら良かったなあ」と思った。それと同時に「改札に入らず逆にコンビニに入ったら面白かったのかも。期待を裏切ってしまったなあ」とも思った。

 自分が自由な服装をするからこそ、その一件できちんとコーディネートしなければと考えさせられた。とはいえ、今でも野球に行きそうな感じのスタイルはよくやっている。誰かに変に思われようが笑われようが、自分がそれを格好良いと気持ち良いと思えることが一番大切なので。ただ、野球スタイルの時は駅や河原に行かない日に限定して、場所を選ぶようにはなったかもしれない。

ユニフォームには、ファッションとしての魅力が詰まっている

 野球のユニフォームの魅力は、胸に入るチームロゴの主張である。デザインが良いとグッとくる。実は子供の頃に少年野球をやっていたのだが、私は朱雀第八小学校に通っていてそのエリアの少年野球のチーム名が「オール朱八」だった。ユニフォームは白地で、ロゴは黒で左胸に漢字で「朱」、右胸に「八」って入っていた。子供ながらに「ダサい」と思っていた。それに比べて隣の小学校のチームは「ビクトリーズ」という名前で、胸に筆記体で「Victorys」って入っていて、「エライ違いやな」って、ユニフォームの見た目だけであっちに入ろうかなと考えたこともあった。今の自分なら、「漢字で『朱八』って格好良い!イケてるやんっ」て思うのだろう。

それだけチーム名のロゴデザインは大事なのだ。あとはラインテープが襟周りや袖口を飾ってあるのも魅力的である。そんなふうに思ってそれらがテーラードジャケットやスーツにあったら「格好良いんちゃうん?」と、10年くらい前にカスタムで作った衣装がある。ヴィンテージのベースボールシャツから胸のチームロゴとラインテープを外し、テーラードジャケットに移植した。これは自分的にはかなり気に入って何着か作った。シンプルなジャケットやスーツに主張が入って他には無い一点ものになったのだが、その代わり主張を奪われたベースボールシャツが残るのだ。グレーや白のシンプルなベースボールシャツは、もはや何シャツか分からないほどである。流石にかわいそうなので、シンプルなベースボールシャツも自分で着ることにしている。派手な柄や色を合わせてしまう自分の着こなしには、意外とシンプルなベースボールシャツが相性良いので、何だかんだで着る頻度は多いかもしれない。

 ロゴの無いベースボールシャツを着ていると、アパレルの知り合いから「これなんですか?」と聞かれることが多い。みんなチーム名やラインの無いベースボールシャツを見たことが無いから何か分からないみたいで、説明すると「これ良いですね!」ってなるのだ。 
 主張があるから良いと思っていたベースボールシャツが、主張の無いベースボールシャツも「これまた良いやん!」ってなるのだから。まさに偶然の産物である。つまり胸のチーム名とラインだけが魅力ではなく、ベースボールシャツ自体のデザインが魅力的なのだ。

 野球はやらないよ。でもベースボールユニフォームは着る。私には欠かすことのできないファッションアイテムなので。