人間も食べられるドッグフード。PETOKOTO FOODSが考える「人と動物の共生」

2020.12.04
PETOKOTO FOODSは人も食べられるドッグフードで「人と動物の平等な関係性」を目指すブランド。メディア「PETOKOTO」やマッチングサイト「OMUSUBI」も運営する大久保泰介さんと甲斐菜美さんの原動力に迫りました。

ペット・飼い主・動物が苦手な人の三者がそれぞれに尊重される社会

—2016年にメディア「PETOKOTO(ペトコト)」、保護犬・保護猫と迎えたい方のマッチングサイト「OMUSUBI(お結び)」を立て続けにスタート。創業者であり、愛犬家でもある大久保さんが動物関連事業をはじめたきっかけは何だったのでしょうか?

 

大久保:いずれもぼくの原体験が背景にあります。もともとは犬や猫が苦手だったのですが、彼女が飼っていた2匹のトイプードルがきっかけで好きになり、一緒に暮らすようになりました。

当時、2匹の子たちに合ったしつけ方やケアの情報をインターネットでよく探していたのですが、知りたい情報が全然見つけられなくて。さまざまなコンテンツがあふれかえっているわりには、300種類以上にものぼる犬種の多さゆえか、個別の情報があまりない。犬全体としてひとくくりにされた情報ばかりで、症状、年齢、体型別など、本当に知りたい情報が手に入らないんです。

大久保泰介

 

大久保:そうした経験から、飼い主にとって本当に有用で信頼性の高い情報が得られ、獣医療・しつけ・お手入れ・フードなどのカテゴリがしっかりと整理されたメディアが必要だと感じました。そこで獣医師の方に社外取締役として仲間に入っていただき、専門家と一緒にペットに関する情報を発信するメディア「PETOKOTO(ペトこと)」を立ち上げました。

OMUSUBIに関しては、ぼくの愛犬・コルクの存在が大きいですね。ペットショップにいる犬や猫は、通常、ブリーダーを通してオークション(競り市)で仕入れられています。コルクはもともと、そのオークションで足が内股だという理由だけで捨てられた保護犬でした。そこを保護団体さんが保護し、ぼくが迎え入れました。 

国内の保護犬猫は年間で9万頭ほどいて、殺処分数は4万頭弱にもおよびます。その根本的な問題が、人間都合による動物の大量供給と、ミスマッチから発生する飼い主の飼育放棄です。OMUSUBIは、このようなペット産業が抱える一番の課題を解決するためにはじめたサービスです。

専門性に特化したライター陣が執筆するペットライフメディア「PETOKOTO(ペトコト)」

 

大久保:いずれの事業も、「人が動物と共に生きる社会をつくる」というぼくたちのミッションのもと、人と動物の平等な関係性を目指して立ち上げたものです。

 

─「人と動物の平等な関係性」とは、具体的にはどのようなことを指すのでしょうか?

 

大久保:ペットと飼い主、そして動物が苦手な方の三者の関係性において、尊重と許容が守られている状態です。この考えの背景には、ぼくのイギリスでの3年間の在住経験があります。現地では電車やバスに犬が普通に乗ってきたり、公園ではペットがリードなしで散歩していたりしました。でも、動物が苦手な方にちゃんと配慮し、みんながマナーを守っていた。その光景を、日本でも実現できたらなと。

大久保さんの愛犬・コルク

 

甲斐:「配慮」というキーワードは大切にしています。ペット関連企業は、動物を愛するあまり、想いが偏ってしまうものなのかもしれません。当社では、動物が苦手な人にも配慮し、中立的な立場で世の中を良くしていきたいという考えが根底にあります。じつは私が入社した動機のひとつも、そんな大久保のスタンスに共感したからなんです。

甲斐菜美

 

大久保:その理想は、会社のオフィスづくりにも表れています。メンバー全員が愛犬家・愛猫家なので、フローリングや壁面などは、犬や猫がストレスを感じないような材質にこだわると同時に、動物が苦手な方のために、会議室まで犬や猫に出会わずに行けるような導線づくりもしています。三者が一定の距離を保ち、配慮し合うというのは共に生きるうえで大切な視点だと思っています。

 

オフィスの3階には「猫部屋」もある

「ペットの家族化」を実現するためにこだわり抜いたドッグフード

─メディア、マッチングサイトに続き、なぜフード領域である「PETOKOTO FOODS」を立ち上げることになったのですか?

 

大久保:そこには、ペットがひとつの生命として尊重されていないのではないかという課題意識があったからです。ぼくらは「人と動物が共に生きる社会をつくる」ことを掲げていますが、法律上、他人の犬を怪我させてしまうと「器物損壊罪」になるように、まだまだ社会的には犬や猫はモノとして扱われています。

飼い主たちは家族としてペットに接しているのですが、社会全体を見ると必ずしも「ペットの家族化」が根づいているわけではないんです。世の中では、LGBTQなどさまざまな多様性の在り方が議論されている。一方で、殺処分や飼育放棄が社会問題化しているように、ペットは虐げられ続け、マイノリティのまま取り残されているのではないかと。

その象徴的な存在のひとつがペットフードです。たとえば、ドッグフードというとドライフードと呼ばれるカリカリの商品を連想すると思いますが、あれをぼくたち自身が食べたいかというと、そうではない。さらには、原材料や製造方法がブラックボックス化しているのも飼い主にとっては不安材料となっています。

フレッシュフード「PETOKOTO FOODS」

 

大久保:そういったこともあって、飼い主側だけでなく、ペット自身も安心して美味しく食べられる、新しいジャンルのドッグフードである「フレッシュフード」を作ろうと考えました。

PETOKOTO FOODSは、安心と安全の面から、国産のお肉や野菜にこだわり、健康維持に必要のない保存料や着色料などの添加物は一切不使用。レシピ開発は世界小動物獣医師会(獣医師によって構成され、ペットフードへの提言なども行っている団体)の創立メンバーで、世界に数十名しかいない米国獣医栄養学専門医でもあるニュージーランド在住のNick Cave(ニック・ケイブ)さんという獣医師にお願いしています。

また「PETOKOTO(ペトこと)」を通して生産者さんの情報や顔、素材や製造工程などを伝えるようにしています。いくらでも情報を隠せてしまう食品業界のなかで、ぼくたちはどこまでも正直でありたいです。

なぜなら、ぼくたち自身が愛犬家・愛猫家であり、自分たちの家族であるペットのためにも安心安全なフードを作っていきたいと考えているからです。PETOKOTO FOODSにかかわっている生産者もみんなペット好きなので、その「当事者意識」を共有できていると思っています。

 

─PETOKOTO FOODSで提供しているフレッシュフードとは、具体的にはどのようなものなのでしょうか?

 

大久保:人間も食べられるような、ヒューマングレードな原材料で、調理後すぐに冷凍保存し、お客さまに直接届けるフードです。ちなみに、アメリカではすでに市場ができ上がっている領域ですね。

ペットの家族化が進むにつれて、飼い主も健康や安全面で食事の重要性に気づき、「自分と同じレベルのご飯をペットにもあげたい」と考えるようになってきています。ぼくたちはそのニーズに応えるべく、「ヒューマングレードのフード」(=「人間基準」)をコンセプトに、味や品質にこだわった商品開発をこころがけています。

 

甲斐:メニュー開発は大変でしたね。PETOKOTO FOODSでは現在、総合栄養食と呼ばれる、元気な子が健康を維持するためのフードをメインに出していますが、ワンちゃんにはさまざまな種類はもちろん、偏食やアレルギー、病気など、いろいろなタイプの子がいます。

でも、現状はそれら全部に対応できるフードはほぼないんです。多種多様な悩みや課題があるなかで、一匹でも多くのワンちゃんを救うためのメニュー開発に、日々悪戦苦闘を続けています。今後順次商品を拡大するなどして、対応していきたいですね。

 

商品に同梱されるメッセージカード

継続性が重要だからこそ、飼い主にも「ワクワク」を

─PETOKOTO FOODSでは犬の体重や体型、活動量などを事前に診断して、それに合わせてフードをカスタマイズできる点もポイントですよね。このシステムを採用した理由を教えてください。

 

大久保:ぼくらが最も重視しているのがカロリーコントロールです。いま、日本のワンちゃんの半分が肥満だといわれていますが、肥満になると疾患にもなりやすいです。だから個々のワンちゃんに合わせて、最適なカロリー量のご飯を配送できるよう、カスタマイズ性を採用しています。

 

甲斐:あとは事前診断の際に、ワンちゃんの名前も入れてもらい、その名前をパッケージにラベルとして貼るようにもしています。商品に同梱する月替りのメッセージカードも、食に関することだけでなくトピックスやデザインを変えるなど、飼い主さんがワクワクできるような仕掛けを作っています。

 

甲斐:PETOKOTO FOODSのサービスは一回きりではなく、継続していただくことで愛犬の3年後、5年後と続く未来の健康的な毎日を作るサービスです。そのためには、飼い主さんに「ドライフードよりもフレッシュフードを食べ続けるほうが、3年ほど寿命が伸びる」といったエビデンスをお伝えすることはもちろん、飽きがこないように、常に楽しみを提供するようにしています。

また、私たちが実現したいのは「飼い主とペットの幸せな思い出を最大化する」というビジョン。そのためには、健康で元気な時間を増やすことと、思い出の時間をたくさん作るということがポイントになります。

食事を通してワンちゃんが健康になるだけでなく、飼い主さんとワンちゃんの一緒にいる時間を幸せにしていかなければなりません。そういった意味でも、ワクワクを届けることは大切なことだと考えています。

 

─PETOKOTO FOODSをローンチしてからのユーザーの反響はいかがでしょうか?

 

甲斐:SNSや問い合わせフォーム経由で、お客さまからのご相談やご感想をたくさんいただいています。

現状、ユーザーの6割くらいが、ワンちゃんの偏食や、持病があってなかなかご飯を食べてくれないという悩みから、私たちのサービスにたどり着いています。印象的だったのが、「いままでは全然食べなかったのに、PETOKOTO FOODSにして以降、冷凍庫を開けようとするとワンちゃんが寄ってくる」といった声。とても嬉しかったですし、やりがいにもつながります。

もうひとつ印象に残っているのが、年を取って食欲もなくなっていたワンちゃんが、PETOKOTO FOODSだけは亡くなる直前まで食べ続けてくれて、それを見て家族みんなが幸せな気持ちになった、というお話です。

私たちとしては、ワンちゃんにPETOKOTO FOODSを生涯を通じて食べてもらうことで、毎日美味しく幸せに、少しでも健康になってもらいたい。そういった意味では、最期のご飯としてPETOKOTO FOODSが選ばれたという事実には、嬉しさとともに身の引き締まる思いでした。

 

ミッション起点の一貫した姿勢こそが、周りを巻き込む原動力

─獣医師さんをはじめ、多くの専門家が参画されていますね。その理由はどこにあるのでしょうか?

 

大久保:当社に連絡をしてくれるお客さまは、もともとペットに悩みを抱えていて、食品にこだわっているお客さまも多く、専門性の高い質問やお声をいただくことがたびたびあります。それに対して、ぼくたちは不正確な情報で答えるわけにはいきません。専門家と連携して正しい知識・知見を与えるという使命も担っていると考えています。

 

専門性の高い問い合わせについては、2020年の春に「獣医師相談窓口」というものを新たにLINE上でスタートし対応しています。そういったサービスで専門家が協力してくれるのは、ぼくらのサービスがミッション(「人が動物と共に生きる社会をつくる」)起点であることに尽きるのではないかと思います。

 

たとえばOMUSUBIは、慈善事業をやっているようなものなので、普通の経営者なら利益重視に振り切って、サービスを閉じてしまうかもしれません。それでも一般企業であるぼくらが続けていられるのは、ペット産業を変えたい、犬や猫は「消耗品」ではなく家族なのだと本気で思っているからです。「ペットが好きな人、動物、動物が苦手な人の三者が尊重しあえる社会をつくる」というミッションや姿勢に、専門家の方々も共感してくれているのだと思っています。

 

─そうした信念をもち実行していくことは専門家の方だけでなく、メンバー全員のモチベーションにもなっていそうですね。

 

大久保:そうですね。ぼくらのサービスの裏側には、一貫したミッションやビジョンがあります。その一貫性をより強固にするために、ミッションステートメントのバリュー(行動規範)のひとつに、未来をつくるプロでいようという言葉を入れています。そのなかに「犬猫の命は私たちよりも短いからこそ、誰よりも早く世に出すことを美学とし、PDCAを回して改善し続けよう」というメッセージがあります。すべては犬猫起点で考え、行動につなげています。

今後、OMUSUBIでは企業や行政も巻き込んだ保護犬猫文化の創出に貢献し、PETOKOTO FOODSでは総合栄養食だけでなく、お客さまのニーズに沿った非常食やおやつの開発などにチャレンジしていくつもりです。

専門家のみなさんといままで以上に連携をとることでPETOKOTOブランド全体を強化し、正確な情報や良質な商品を提供できるようにしていきたいです。一人ひとりの飼い主やペットに寄り添い、ペットライフを充実させられるような「コンシェルジュプラットフォーム」にします。

 

─今後サービスを拡充していくことで、ユーザーもさらに増えていくかと思います。そういったなかで実現していきたいビジョンや計画はありますか?

 

大久保:第一は、ペットの食文化を変え、飼い主が動物の命を考える循環型のビジネスモデルを構築していくことです。そのなかで、保護犬猫の一層の支援やペットの健康作りといった、社会的に意義のある取り組みも進めていくつもりです。

現在も、PETOKOTO FOODSの売上の一部を保護団体に寄付したり、当社のInstagramのアカウントをフォローいただくと、1フォロワーあたり1円分のフードを寄付できる「1フォロー1ミールプロジェクト」を実施しています。動物好きや飼い主の方も良いことをしたいという想いを持っているはず。そういった人たちを巻き込みながら、一緒に保護犬猫の課題を解決していけたらいいですね

さらに一歩進み、現在地球規模で起きているフードロスの問題を解決するために、生産農家さんと話を進めてもいます。たとえば規格外で食品廃棄されてしまう食材をペットたちのために活用できないか、など社会全体に貢献できるような仕組みづくりです。企業を経営している以上、そういった社会的、地球的な課題の解決にも寄与するプラットフォームを構築できるように、周囲の企業さんも巻き込んで精進していきたいですね。

Text by 石塚振

Photo by 有坂政晴(STUH)

Edit by 中川真(CINRA)

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