WA.CLOTH(ワクロス)

紙糸に最先端の機能を持ち合わせたハイブリッド素材「WA.CLOTH® HYBRID」を、さまざまなブランド・企業に提供してきた。この実績をもとに、2020年12月、紙糸を使用した体と環境にやさしいブランドとして「WA.CLOTH ESSENTIAL」をスタート。Tシャツやデニムなど、ベーシックなファッションアイテムを通して紙糸の機能性や魅力を伝える。

生地から洋服へ。紙糸の魅力と価値を伝えるために立ち上げたブランド

─「WA.CLOTH」は、そもそも紙糸を使用した生地のブランドとしてスタートしたそうですね。

 

米崎:そうなんです。6年前に、僕の上司が、ヨーロッパのマーケットにアピールできる生地を探している中で、当時、日本だけにしかない素材「紙糸」に注目し、生地を開発したことが始まりでした。

 

紙糸を使った紙繊維は2~30年ほど前からあって、ニットなど編み物系のアイテムに使われてきました。ただ、紙糸はウールや綿に比べてやはり質感が硬い。決して着心地がいいものではなかったと思います。ところが、ここ10年くらいで紙糸を作る技術が進化して、触り心地の良い、柔らかい生地が作れるようになりました。「WA.CLOTH」で生地を開発することができたのもそのおかげです。

営業統括第一本部MD企画室マーケティング室室長「WA.CLOTH」担当 米崎尊路さん

─紙糸の生地を使用したアパレルブランド「WA.CLOTH ESSENTIAL」を立ち上げた理由は何でしょうか?

 

米崎:「WA.CLOTH」が開発した生地「WA.CLOTH® HYBRID」は、素材の珍しさや、環境に優しいエコな素材ということで、多くのブランドに注目していただきました。ただ、紙糸を作る技術は高まったとはいえ、まだまだ発展途上。製造途中に切れやすかったり、編みづらかったりと、どうしても時間とコストがかかる部分があります。量産やスピーディな商品化を求められても今はまだなかなか応えられない現状があり、だったらまずは、自分たちでできるペース、できる数で、商品化をしてみようと考えたんです。

米崎:さらに、紙糸の生地に注目していただく中で、必ずといっていいほど「切れないの?」「洗濯して平気なの?」「溶けないの?」といった質問をたくさん頂きました。まだまだ知られていない紙糸の機能性や魅力をもっと知ってもらいたい。そのためにはやはり商品という形があった方がわかりやすいと思うんですよ。いわば、「お米」を「ご飯」に変えるといったこと。食べられるようになって初めてその味がわかるわけですよね。そこで、これまでBtoBで販売していた紙糸の生地を、服というアイテムに変えて、一般消費者に向けたブランド「WA.CLOTH ESSENTIAL」を通して世に紹介していくことにしました。

「WA.CLOTH ESSENTIAL」のアイテム

─「WA.CLOTH ESSENTIAL」の名前に込めた思いについてお聞かせください。

 

米崎:「エッセンシャル」という言葉を、「不可欠なもの」という意味合いで捉え、紙糸を使った服の基準となるものを作りたいと考えています。いま僕たちがいろんなデザインものを作ってしまうと、今後、他のブランドさんがこの生地を料理しにくくなってしまう。なので、まずは紙糸の素材や機能性、その良さを一番に感じていただけるように、ということに重きを置いて、ベーシックなデザインのアイテムだけを展開していくことにしました。

値段以上の価値を感じてほしい。機能性とエシカルを兼ね備えた紙糸の服

─ブランドのコンセプトには「体と環境に優しい」とありますね。どのような点がサステナブルなのでしょうか?

 

米崎:ここ数年で、エシカルとかサステナブルという言葉をよく聞くようになりましたが、僕らとしては、それは当たり前のことという認識です。というのも、三井物産アイ・ファッションの考え方として、倫理に反した取引やものづくりは行わないということが大前提としてあります。このエシカルという考え方のパーツの一つが、環境配慮だったり、サステナビリティだったりということ。僕たちは「WA.CLOTH」も含め、さまざまなところで「ステイ・エシカル」と言っていますが、今までもエシカルだし、これからもエシカルであり続けたい。紙糸のような素材が広く使われるようになれば、人にも環境にも優しい未来はやってくると思っています。

左から紙糸、カットする前の紙、原料のアバカ

左から紙糸、カットする前の紙、原料のアバカ

米崎:多くの服に使われている綿の栽培方法は、環境へ負荷をかけていることが少なくないんです。それが問題視されて、農薬を使わないオーガニックコットンが注目されていますよね。「WA.CLOTH」で使う紙糸の原料は、亜熱帯で育つアバカというバショウ科の植物で、マニラ麻とも呼ばれています。短期間でどんどん生えてくるので、大きな負荷をかけずに生産でき、人にも優しい素材だと言えます。しかもできたものは紙だから土に還る性質もあるんですよ。

米崎尊路さん

米崎尊路さん

─紙糸を使った服の特徴や優れた点はどんなところでしょうか?

 

米崎:まず、紙糸の機能性として、湿気を吸うということが最大のポイントだと思います。紙糸は、硬さがあり、少しザラッとした感じがあります。それゆえに肌にまとわりつく感じがなく、着たときに清涼感がある。なので夏はすごく快適に着られます。でも最近、冬こそ「WA.CLOTH」じゃないかと思っているんです。なぜかというと、冬って、外は寒いのに室内は暖房で暑くて蒸れるじゃないですか。そこを紙糸がコントロールしてくれる。湿気を吸うから蒸れづらいし、しかも空気の層による保温効果で暖かいんですよ。

米崎:とくにソックスは、紙糸の特徴を実感していただきやすいアイテムだと思います。革靴を長時間履いたり、冬場ブーツを履いたりして蒸れや臭いが気になる人は多いと思いますが、紙糸のソックスなら、ずっとサラサラ。臭いも気になりません。

ブランドの立ち上げ当初、実験的に社員400人にソックスを配って履いてもらったのですが、「3日履いても臭わなかった」なんて声もありました(笑)。

だから、スポーツして汗をかく人にもおすすめしたいですね。トレイルランをする人が、普通なら何十キロも走って蒸れるわ、水ぶくれができるわっていうところをこのソックスだとそれがなかったという話も聞きました。しかも耐久性も抜群。ちょっとやそっとじゃ擦り切れたり、穴があいたりすることはありません。

「WA.CLOTH ESSENTIAL」のソックス。ブラックもある

「WA.CLOTH ESSENTIAL」のソックス。ブラックもある

米崎:もう一つの大きな特徴は、軽さ。同じ太さの綿と比べて重さが3分の1しかありません。なので、12~13オンスと同じ厚さのデニムが、10.5オンスぐらいでできる。「WA.CLOTH ESSENTIAL」のデニムは、見た目の重厚感に対してすごく軽いので、みなさん驚かれると思います。

「WA.CLOTH ESSENTIAL」のデニム

「WA.CLOTH ESSENTIAL」のデニム

─こんなにたくさんの機能性があることに驚きました。実際の着心地や使用感についてどんな声・感想がありますか?

 

米崎:昨年は、この機能性とメイドインジャパンの素材ということで、日本代表サーフィンチームの公式サプライヤーであるクイックシルバーが注目してくださり、「波乗りジャパン」の公式ウェアを作らせていただきました。

「WA.CLOTH」が手がけたクイックシルバー「波乗りジャパン」の公式ウェア

「WA.CLOTH」が手がけたクイックシルバー「波乗りジャパン」の公式ウェア

米崎:普通は、機能性のある生地というと合成繊維がほとんど。それが、天然繊維なのにこんなにも機能性があるという点が紙糸という素材の不思議なところであり、最大の魅力なんです。

実際に「WA.CLOTH ESSENTIAL」のソックスや服を試した方からは、「一度着ると病みつきになる着心地」だと言ってもらいました。金額で悩む方もいるかと思うのですが、この機能性と耐久性を考えると、コストパフォーマンスは抜群じゃないでしょうか。とにかく一度騙されたと思って着てみてほしいです(笑)

米崎尊路さん

米崎尊路さん

紙糸の輪をWA.CLOTHから広げたい。エシカルなファッションの選択肢を増やしたい

─現在、課題となっていることにはどんなことがありますか?

 

米崎:これまでコラボ商品を開発したTHE NORTH FACEやNEW ERA、L'EQUIPEなどのほかにも、いろんなブランドさんに、「WA.CLOTH」の生地を注目していただきましたが、最終的にネックになるのは、やはり価格が高いということ。僕たちとしても、もう少し価格を抑えて生地を作る方法を考えているのですが、とはいえ単純に安くすればいいということではないとも思っているんです。

紙糸という素材の良さや価値がまだ充分に認知されていないいま、僕らがやるべきことはこの新しい素材に対する価値をわかっていただく努力をするということ。それこそ、エシカルな考え方に基づいて、この値段が正当だと納得いただけるようにしたいと思っています。

 

─今後ブランドとしてチャレンジしたいこと、また伝えたいメッセージを教えてください。

 

米崎:「WA.CLOTH」を、そして紙糸を、世に広めるために、今後も著名なブランドやデザイナーとコラボするということはやっていきたいですね。そして、作っていただいたものはすべて「WA.CLOTH」のECサイトで販売できるようにしたいと考えているんです。いわば「紙糸セレクトショップ」みたいなイメージですね。いずれ、「WA.CLOTH」という名前が付いていることが、素材に対する信頼や安心感につながるようになればいいなとも思っています。

 

あとは、やはり世界に紙糸の良さを知っていただきたいですね。現状でも一部アプローチはしていますが、自分たちの力で越境するということにチャレンジしたいと思っています。

米崎尊路さん

米崎尊路さん

─近い将来、紙糸の服を着るということが当たり前になる日が来るかもしれません。そのとき私たちの世界はどうなっていると思いますか?

 

米崎:紙糸はまだまだ生産性が悪いということもあり、量がバンバン増えていくということはないと思うんですけど、消費者にとって、エシカルな選択肢の一つになるということが理想ですね。ただ、「エシカルだから」チョイスするというより、紙糸の機能性や着心地を肌で感じ、いいと思ったから、そこに価値を見出していただいたから、チョイスするという状況を作ることが自然な形なのかなと思っています。「紙って着るもんだよね」と、世の中の意識を変えることができたら面白いですよね。紙糸の可能性はまだまだあると思っています。

米崎尊路さん

Text / Edit by 秦レンナ Photo by 忠地七緒

2021.02.12