crafsto(クラフスト)

2020年7月にスタートしたレザーブランド。さまざまなメゾンブランドの革製品を修理してきた職人が手がけるアイテムは、丈夫で修理がしやすく、使うほどに馴染んでいくことが特徴。購入したアイテムを永年で無償修理できるユニークなサービスも提供している。8月には工房を併設した店舗を東京・蔵前にオープンした。

「長く使う」ことで、ものが自分の一部になる

―ブランドのコンセプトである「FUTURE VINTAGE」には、「ものを長く使う文化をつくる」という思いが込められていると聞きました。お二人がものを長く使うことの良さを考え始めたきっかけはあったのでしょうか?

 

太田:ぼくはもともと服が好きだったのですが、祖母が服飾関係の仕事をしていたので、気に入った服が破れてしまったときなどに直してもらったり、相談したりしていました。そういった環境もあって、ものを長く使うという意識は常日頃から持っていました。

製品の開発、制作、修理を担当する職人の太田玲

久保:ぼくは18歳のときに買ったGibsonのギターが大きなきっかけでした。ギターは幼少期からやっていたのでいくつか持っていたのですが、50万円くらいするGibsonのギターを買ってからは、「これで十分だな」と感じて。いまもメンテナンスをしながら使っています。いいものを長く使おう、という気持ちはそのときに芽生えましたね。

 

―ものを長く使うことには、どういった良さがあるのでしょうか?

 

久保:長く使うことで愛着がわき、自分の一部のようになっていくことですね。特に革製品は、油を塗り込むなどのケアをしながら使い込むほどに経年変化が進んでいくので、「ものを育て上げる」という側面を持っています。

 

でも、長く使うためには日々のケアだけでなく、修理にかかる時間やお金といった障壁も多い。ぼくらはそういった壁を取り除くことで、欧米のようにものを長く使い、後世に受け継いでいく文化を作っていきたいなと考えています。

 

―ものを後世に受け継いでいくという文化は、日本には浸透していないのでしょうか?

 

久保:日本ではまだ弱いのかな、と思っています。国外でも活動経験のあるファッションデザイナーの妻に聞くと、主にヨーロッパでは、おばあちゃんが使っていたハイブランドアイテムを、若い子が当たり前のようにファッションに取り入れているそうです。そうした点に、ヴィンテージの文化が根づいているのを感じます。

 

crafsto代表の久保順也

crafsto代表の久保順也

太田:修理の仕事をするなかでも、海外在住経験の長い人など、欧州文化に慣れ親しんでいる方々が、修理に持ってこられることが多いですね。

 

また、海外では受け継ぐといっても、単にそのまま使うのではなくて「いまの時代に使うにはどうしたらいいのか」を考えている人が多い印象を受けます。昔のエッセンスを残しながら、いまっぽいアレンジを行っている人をよく見かけます。

 

―「いまっぽさ」というのも重要なポイントですね。

 

久保:そうですね。ヴィンテージという言葉は、「古き良きもの」というイメージが先行していますが、もともとの意味はワインの「当たり年」を示すものだったそうです。つまり、古いから価値が上がったものではなく、そもそも本質的に価値があるものということ。だからこそ、時間が経っても色褪せない普遍的な良さがある。

 

ぼくらはcrafstoの製品を通じて、「当たり年」を作り、これからのヴィンテージを生み出していきたいんです。現代において必要なものを定義し、お客さんには本当にいいものを、愛着を持って長く使ってもらいたいと考えています。例えば老舗のレザーブランドにはなかったような、PCケースや充電器入れを作ったり、財布でもキャッシュレス時代に必要な財布とは何かを考えて作ったり。コンセプトである「FUTURE VINTAGE」には、そういった意味が込められているんです。

無料サービスは、修理へのハードルを下げるため

―プロダクトに対する「もの作り」において、こだわっているポイントを教えてください。

 

太田:「修理のしやすさ」をつねに念頭に置いています。というのも、ものはどうしたって壊れますよね。だから、製作するときから直すことを前提に設計しているんです。たとえば、革を接着する際に使うのりは剥がすことを想定して選んだり、ステッチの幅も細かすぎると修理後、縫い合わせる際に糸が切れてしまうので、適切な幅を考えたり。もちろん壊れにくさも考えていて、革の種類によってダメージが出やすい場所が違うので、補強の入れ方を変えるといった工夫もしています。

 

久保:あと見た目と使いやすさと丈夫さのバランスも重視しているポイントですね。いわゆる機能美にフォーカスしているんです。革は分厚くすれば丈夫にはなりますが、やり過ぎると見た目を損なってしまう。スタイリッシュに使えるようにしつつも、壊れやすい箇所にピンポイントで補強を入れることで丈夫に作ることを意識しています。

 

―購入したアイテムを、永年で無償修理できるサービスも提供していますよね。

 

久保:はい。修理にはお金も時間もかかるという点で、お客さんのなかには障壁がある人もいるかもしれません。crafstoには太田をはじめ、もの作りを理解している販売スタッフがいるので店舗に持って来てくれればすぐに判断できるし、その場で15分くらいで直せる場合もあります。

 

太田:いままでにいろいろなブランドの製品を修理してきてわかったのですが、ほとんどの商品が修理を前提に設計されていないんです。昔の製法を踏襲していたり、作りやすい・コストがかからないという観点から作られていたりするものが多い。

 

修理ができたとしても、既存のメーカーだと、修理で3,000円から4,000円は少なくともかかってしまう。さらには、メーカーのほとんどが修理を外部委託しているため時間がかかってしまい、最短でも中1日、海外に送る場合は何か月もかかることがあります。ぼくらはそういった課題を、無償修理などのサービスで解決し、ものを長く使うことへのハードルを下げていきたいと考えています

ブランドの世界観を伝える工房一体型の店舗

―crafstoはパッケージにもこだわっている印象です。

 

久保:パッケージは、東京下町で長く紙工業を営まれている会社にお願いして作ってもらっています。ECサイトで注文したお客さんにとっては、届いて最初の接点がパッケージになるので、普通のものではダメだと思ったんです。

左下が商品を入れるパッケージの箱。箱はスライド型で、引き手は牛革が使用されている

左下が商品を入れるパッケージの箱。箱はスライド型で、引き手は牛革が使用されている

久保:あとは、もの作りの町である蔵前という立地もそうですが、工房と一体型にするという店舗スタイルにはかなりこだわりましたね。奥に職人がいることで、修理やメンテナンスがしっかりとできるということを、空間で伝えられればと思っています。店舗の内装も、もともとは税理士事務所だったところをほぼDIYでリノベーションしたり、店舗前にある鉄の看板をあえて錆びやすい素材にしていたりして、ブランドのにおいみたいなものを表現しています。

 

―ブランド立ち上げ時から、工房一体型の店舗は構想していたのでしょうか?

 

久保:そうですね。革製品は個体差があるので、実際に見て選びたいというニーズが圧倒的に多い。また、もの作りの背景を伝えられ、修理をその場で受けることができるようにするという意味でも、工房一体型の店舗を考えていました。来年も新しく出店しようと考えているのですが、同じく工房一体型のスタイルを考えています。

 

―店舗に来るお客さんはどういった方が多いのでしょうか?

 

久保:Instagramの公式アカウントを見て来てくれた方や革好きの方、ギフトとして買う方がメインですが、いずれも過去に修理をしようと思ったのに、できなくて困った経験のある方が多いです。店舗は現在、来店予約制を取っていて、1対1の接客となっているので、お客さん側もブランドに対してある程度の知識や好意を持って来店してくれているし、ぼくらとしても「お待ちしていました」というホテルのサービスのようなスタンスで、お客さんのことをある程度理解した状態で接客できています。いまのところ、お客さんにもご好評いただいていますし、ぼくらとしてもこういう状態でお客さんと向き合えることが楽しいですね

売り場の奥に工房。ミシンや工具が並ぶ

売り場の奥に工房。ミシンや工具が並ぶ

店舗はものへのケアや修理の意識を向ける、きっかけの場でありたい

―店舗でのお客さんとのコミュニケーションにおいて、大切にしていることを教えてください。

 

太田:修理を行った際に、今後同じような壊れ方をしないための使い方やケア方法についてもお伝えするようにしています。他社製品に関しても、修理は請け負っていないのですが、アドバイスだけはしていて。ものを長く使うためのケアや修理への意識は、実際に誰かに言われたり、時間を取って考えたりしないと気づかないことも多い。お客さんが来店した際に、そういう機会を持っていただけたらいいな、と思っています。

 

久保:そういった意味では、今後はものを長く使うためのワークショップなどもやりたいですね。crafstoの製品だけでなく、他ブランドのバッグや小物なども含めて、ちょっとした使い方などをお伝えしていけたら、と思っています

リアルとデジタルの情報格差を埋めるための施策

―ECサイトも運営されていますが、デジタル上でのコミュニケーションにおいても、大切にされていることがありますか?

 

久保:受注生産の納品日を正確にお伝えすることは意識しています。外部に生産をお願いしているブランドと異なり、ぼくらは自社で生産管理をしているので、「2、3週間でお届けします」といったアバウトな伝え方ではなく、「この日にお届けします」と伝えることができる。そういうちょっとしたことが、お客さんと信頼を築くうえでは大切なことだと思っています。

 

あとはまだ開発途中のものが多いですが、今後は店舗との情報格差を埋めていくためのサービスを順次実装していく予定です。

 

―具体的には、どういった機能を開発しているのでしょうか?

 

久保:たとえば、店舗で行なっているセミオーダーのサービスや、お客さんにサンプルをスムーズにお届けして、ものを実際に見てもらえるような機能などを考えています。ゆくゆくは経年変化した製品のサンプルをお送りして、使っていくとどうなっていくのか、といったこともわかるようにできたらと思っています。

 

さらには、オンラインだからこそできるサプライズなどもどんどん仕掛けていくつもりです。言ってしまうとサプライズにならないので、詳細は言えないのですが(笑)

crafstoのECサイト。プロダクトのタイプや、革種でのカテゴリ分け、タグの活用など、製品を探しやすい工夫もされている

「ものを長く使う」ことで、日々の生活が穏やかになる

―最後に、「ものを長く使う」文化の浸透によって、人々にどのような変化をもたらしたいのかを教えてください。

 

太田:個人的には、「長く使う」という視点を持つことで、より多くの人が審美眼を身につけていくといいなと思っています。いいものは長く使われ、そして受け継がれていきます。人生のなかでさまざまなものに触れたり、見たりするなかで、何を後世に残すのか・残さないのかの判断を誰もができるようになっていくのではないかな、と考えています。

 

久保:太田が言うような選び方や考え方が身につくことで、より日々を穏やかに生きられるようになる気がしていますね。広告につられて買ってしまったり、衝動買いをしてしまったりと情報に流されるのではなく、しっかり考えて買うことのほうが、より人間らしい生活になるはずです。これって別に突飛な話ではなくて、昔は当たり前のことだった。そういう世界に再び回帰していくことで、より人が人らしく生きていけるのではないかな、と思っています。

 

そのためには、「FUTURE VINTAGE」のコンセプトに合ったプロダクトと、ブランドの世界観に合った場所作りの2軸が大切だと考えています。プロダクトはいま、レザーだけでなく異素材を組み合わせたものを開発しています。もちろんウェブや接客のアップデートも行なっていかなければならない。やるべきことは山積みですが、地道に努力を続け、「ものを長く使う」ことを文化にしていけたらと思っています。

 

 

Text by 石塚振  Photo by kazuo yoshida Edit by𠮷田薫(CINRA)

2021.01.15