ジェーン・スー

1973年、東京生まれの日本人。作詞家、コラムニスト、ラジオパーソナリティー。TBSラジオ『ジェーン・スー 生活は踊る』メインパーソナリティに加え、2020年10月よりPodcast番組『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』をスタート。

 

堀井美香

1972年、秋田県生まれ。TBSアナウンサー。現在、TBSラジオ『ジェーン・スー 生活は踊る』『竹中直人~月夜の蟹~』などを担当している。趣味はピアノ、コーヒー、絵画。

ラジオはずっと「閉店セール」をしている? 二人が語る、声メディアの存在

―お二人は長年ラジオに関わっていますが、そのなかでラジオというメディアの立ち位置に変化は感じますか?

 

スー:いや、私たちレベルじゃ長いとは言わないんですよ。ひよっこ中のひよっこ。ラジオの長寿番組は30年、40年と続いている世界だし、40代のパーソナリティーもまだまだ若いほうで、テレビとは基準が全然違います。

 

それに「ラジオの衰退」とか叫ばれていますけど、じつはずっと前から言われてきているんです。それこそテレビ放送が開始された70、80年も前から。

ジェーン・スー

ミカ:「いま、ラジオが新しい」というのも、私が入社した頃からずっと言われています(笑)。つまり、長いあいだ低空飛行で生き残っているメディアだということ。ずっと変わらず閉店セールをしているお店みたいな感じですよね。

 

スー:アメ横にあるみたいなね。

 

ミカ:なんだかんだ需要があるから残っているんでしょうね。

 

―ラジオが残り続ける理由はなんだと思いますか?

 

ミカ:つねに新しい配信方法が生み出されているからじゃないでしょうか。radikoはその最たるものですよね。

 

スー:うーん、あとはみんなテレビに飽きて、ネットに傷ついているだけだと思うよ。ラジオが優しく癒してくれそうだから聞いているのよ。

 

ミカ:リスナーからすると、自分のメールも読んでくれるし、テレビほど遠すぎず、かといってネットほど近すぎない、いい距離感に癒されるのかもしれないですね。

堀井美香

スー:そこで癒しを求めてきた人たちに噛みつくのが、私たちなんですけどね。そんな甘いもんじゃないぞって(笑)。

 

―なるほど(笑)。ではラジオリスナーたちに変化はありますか?

 

ミカ:昔は喋り手も年配、生活に密着しているような内容が多かったし、聞いている人たちも商店街とか車中とかで流していて、生活のなかにラジオがありましたね。BGMのような。いまは逆に、切り取って聞いているという印象があります。出演している人目当てでラジオを聞くみたいな。

 

スー:まだまだ生活音としての役目も果たしつつ、「座って聞く」ものになってきた側面もあるのかもしれないね。

 

ミカ:SNSと連動させてそこでやりとりが発生したり、ラジオとの向き合い方が変わったんでしょうね。

 

―リスナーのあり方も変化しているんですね。そのなかでも、ラジオの変わらない魅力は何でしょう?

 

ミカ: SNSは投げたらそこにリアクションがあったりしますけど、ラジオは聞きっぱなしでいいし、メッセージを送ったとしても採用されるかどうかは本人が知るところではないから、お互いに投げっぱなしでいい。縛られることがないので、自由だし身軽だと思います。

 

スー:どの感覚器官を占有されているかというところはポイントですよね。ラジオは聞くだけだから、手が止まったり画面に目が奪われたりしない。しかもSNSと違って主体的に情報に触れにいかなくてもいいから、主客の「客」サイドになれるよね。

生産性はなくていい。『OVER THE SUN』の「ただ喋るだけ」な魅力

―2020年10月に、場所をラジオからPotcastに移し、新たに『OVER THE SUN』をスタートさせましたね。お二人の普段の会話を聞いているような雰囲気が印象的な番組です。

 

ミカ:私たち、一緒に番組をやるようになってもう7、8年くらい経つんですけれど、もはや長年連れ添った熟年夫婦みたいなんです(笑)。お茶をしに行ったら、ずっと喋らずにいるんじゃないでしょうか。『OVER THE SUN』も、和気藹々とした空気と殺伐とした空気が共存しています。

 

スー:学生時代だったら友達になっていなかったタイプだから、知り合ったのが年取ってからでよかったよね。いまはわざわざ会ってご飯行っても喋ることはないけれど、収録で週に1回会ってどうでもいい話をするというのが、最高のガス抜きになっていますね。

―ちょっと言い合いしながら話が進んでいきますよね。

 

ミカ:「顔テカってるぞ」くらいは普通に言いますね。

 

スー:甘噛みですよね。

 

―お二人の関係性はラジオのままだと思うのですが、Podcastに移って変わったことはありますか?

 

スー:『OVER THE SUN』はPodcastなので、聞きたい人が聞きにくる。『生活は踊る』みたいな誰でも聞けるラジオで、かつあの時間帯ではできなかった、少し踏み込んだ話ができるようになりました。

 

ミカ:ラジオは万人向けだから、通りがかりに聞いた人が「何を言っているんですか!」となることもあるだろうけど、Podcastでそれはなしというか。文句言わないで聞いてねというスタンスです(笑)。

 

―発言の自由度が上がっているのですね。ラジオでは気を使っているのですか?

 

スー:ラジオは気をつけていますね。文字起こしされて、一部が切り取られてネットニュースになったりもするし。

 

ミカ:『OVER THE SUN』は台本もなく、日常の会話の延長で話しているんですよ。たとえば離婚の話がメールで送られてきたとしても、そこで私たちが親身に話を聞いて道を照らしたりすることはなくて、「ギャハハ、最高最高!」みたいな感じで、結局くだらない回答しかしない。普通に友達と無駄話するみたいな感じなんです。私たち二人にリスナーが加わって、みんなで「ヤバイねー」って言って終わる。でも、それでいいと思っているんです。

スー:そうね。生産性もないし。

 

ミカ:同世代の友達と喋っているときって、そんな感じだよね。普段喋っていることが、少しマスレベルになっているというか。

 

―生産性のなさっていいですよね。

 

スー:Podcast全体に生産性がないわけではないですけどね。ランキングを見てみると、ほとんどが生産性と効率性を求めている番組ばかりですから。

 

ミカ:英会話とか時事ニュースとかね。みなさんちょっとした時間で勉強しているんでしょうね。そこになぜか私たちの番組が滑り込んでいるという(笑)。

「遠くにいる親戚のような距離感」。リスナーと癒し合う関係とは?

―生産性のない話を繰り広げられているということですが、お二人の番組リスナーは何を求めて聞きにきているのでしょうか?

 

ミカ:二人ともタイプがまったく違うので、どっちかに自分を重ねられるというのはあるかもしれませんね。それと20代の若い子たちも、結構聞いてくれているみたいなんですよ。私たちが若い頃なんかは、おばさんはもっとしっかりしていないといけなくて、こんなにざっくばらんに話していなかった。

 

スー:私たちみたいな本音を話すおばさんの登場で、若い子たちの「年齢を重ねることへの恐怖心」は取り除かれていると思う。昔はおばさんがふざけたりぶっちゃけたり「大人」らしくない部分を表に出しちゃいけない風潮だったんでしょうね。

―そのざっくばらんさが、お二人の番組のユニークさにつながっているのでしょうか?

 

スー:話している内容に大した生産性がないというフォーマットは新しくないけれど、それをPodcastでやっている点と、やっている人間が40代後半の女だということがいままでになかったことでしょうね。

 

ミカ:そう言えば地元の街中で、リスナーのお母さん集団に囲まれて話しかけられたことがあって。ユニークかどうかはわからないけれど、私たちのことをすごく身近に感じてもらえているんだなと。

 

スー:嬉しいね。

 

―リスナーとの距離感も素敵ですね。

 

ミカ:遠くにいる親戚っていう感覚かな。近しくもないけど、なんかあったらきてくれるような人たちがいっぱいいるっていう感じ。リスナーたちもそう思っているんじゃないかな。

 

スー:嘘がない程度に踏み込まない関係ですよね。

 

ミカ:生きている土壌とか、生活も違うから、別にみんなで比べ合わないし。割とみんな味方っていう感じがしますよね。同じ空間で同じことをしていると、どうしても比べてしまうけれど、みんなそれぞれの土俵で頑張っている人たちだから、そんなに比べない。すごいいい距離感です。

―お二人はこの番組にどのような価値や可能性を感じていますか?

 

スー:この番組の意義は、「40代のおばさん二人がただ内容もなくベラベラ喋るだけ」のコンテンツであること。特に専門知識による見解があるわけでもないコンテンツが許されるようになってきたというのが、一番のエポックなんですよ。これまで若いとか、きれいとか、何かしらの技能や芸があるとか、そういう人しかエンターテイメントには関われなかったところに、ようやく40代の普通のおばさんが集まれる場ができた。それが存在意義であるので、この番組は存在することがリスナーにとっての癒しになる。

 

それに対して「笑いました」「何も覚えていないけれど面白かったです」とか、そういったフィードバックをもらえることがわれわれの癒しでもあります。お互いの存在を指差し確認していくなかで、「ここに居ていいんだ」と自分の居場所を感じていただけたら。母だったり、妻だったり、仕事の肩書きもなく、ありのままを認めあえる。双方にとって大切な場所になっていくと思います。

盗み聞きする感覚が面白い? Podcastから生まれる新しいコンテンツ

―今後、Podcast番組を通して、こういうことをやってみたいという展望はありますか?

 

スー:オンラインイベントができたらいいねというのはあります。

ミカ:この前「朝鮮王朝の王の名前を全部言えるんです」っていうメールがきて、謎なんですけどって思ったら、スーさんも意外に中国の王朝の名前を全部言えて。だから隠し芸大会みたいに、いまさらすぎて誰にも披露していない芸を、みんなで披露するのもいいよねという話もありました。

 

スー:宝の持ち腐れシリーズね。

 

―ゆるくていいですね(笑)。では最後に、近年Podcastのアプリやサービスなどが数多く登場し、個人での配信も増えつつあります。これからPodcastで配信をはじめたい方に向けて、アドバイスをいただけたら嬉しいです。

 

スー:Podcastの障壁はラジオに比べたら低いけれど、タダでできる番組ではないです。PV数やランキングが重要なのも、マネタイズの問題があるから。でも本来大切にすべきなのは、「伝えたい情報があるか」ということです。

 

ミカ:コンテンツの話でいうと、誰かに向けて喋ったコンテンツもいいですけど、誰かの話を盗み聞きしたいなとも思います。

スー:盗み聞きコンテンツって面白いよね。誰もいない家に帰ってきたときに、生活の音として聞けるコンテンツがあると楽しいし、ホッとするかも。マニアの人がマニアな話をひたすらするとかも良いよね。

 

ミカ:そうそう。ガストで作業をしていたとき、隣の家族の話がめっちゃ面白くて。「メガ丼がめっちゃうまい」という話から、「父さんがどれだけその店が好きか」という話になって、それから「昨日見た悪夢の話」を息子がして。なんだよこの家族、天才じゃんって思って(笑)。そういう話を聞きたいですね。

Text by 宇治田エリ Photo by 玉村敬太 Edit by 𠮷田薫(CINRA)