価値観を変える海老。海老乃家の海老は、新たな「食べ方」もデザインする【後編】

2022.09.26
海老乃家は、解凍するだけでそのまま美味しく食べられる剥き海老や、海老のステーキといった「海老の新たな食べ方」を提案するブランド。海老乃家が変えたい、海老にまつわる「価値観」とは。ブランドの源となっているのは、創業者 船田裕亮さんの身近な体験でした。
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海老乃家 / web 海老専門店
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価値観を変えた先にある未来

―海老乃家がブランドメッセージとして伝えられている、「価値観を変える」とはどういったことなのでしょうか。

 

船田:美味しいのは前提で、今までの「海老」のイメージとかけ離れた体験を提供することですかね。視覚的な驚きもそうですし、一般的には捨てられている海老の頭や殻を活用して開発したオイルやソースで、さらにおいしく海老を食べてもらう体験などは、まさにその代表例です。

海老の全てを余すことなく活かすことで「海老」と「アップサイクル」が結びついて、それが社会貢献に繋がったら、素晴らしいと思いませんか。

 

 

船田:また、海老乃家はアウトドアブランドと協業して、キャンプなどで手軽に楽しめるアヒージョソースを作成しています。これにも海老の殻を使用しており、外で手軽に、これまで食べたことのなかった海老の美味しさや食べ方を提供しています。ここでも感動体験にも繋がっていると嬉しいです。

 

―殻も活用しよう、と思われた背景は何だったのでしょうか?

 

船田:初めは、栄養もあって美味しい海老の殻を焼却処分するだけなんてもったいない、という海老好きとしての想いでした。それで、どうせ活用するなら「味」で勝負して「海老の殻ってこんなに美味しいの!?」と価値観を変えたいな、と思いまして。

そこからまず、あらゆる料理の味を下支えする「オイル」の開発に乗り出しました。グラタンやラーメンをはじめとする王道料理のトッピングにまんべんなく使えますし、海老を使った料理に「追い海老オイル」なども美味しいです。用途の幅広さゆえに、接点・お届けできる人も多くなるだろうと考えました。

これが結果的には廃棄を減らすアップサイクルに繋がりましたが、元々の原動力は多くのお客さまの海老に対する価値観を変えたい!が正直なところです(笑)

 

―海老チリソースや海老だしも販売されていますが、これも海老オイルと同じ背景で生まれた商品なのでしょうか。

 

船田:起点は同じですね。ただ、私たちはドレッシング・カレー・ガーリックソースなど他のありとあらゆる食べ方にもアプローチしていきたいと元々思っていて、初めに着手したのが、お客さまにヒアリングを重ねる中で人気だと分かった「エビチリ」でした。人気だと分かったからこそ、何よりもこだわりました。海老本来の美味しさを引き立たせるためのエビチリソースはこうだよな、とこれも納得がいくまで開発を続けたので、3年くらいかかってしまいましたが(笑)
 

 

船田:海老だしは、美味しさと「誰もが好む海老の旨み」の両立が至上命題でした。頭や海老みそを使った場合、コクは出ますが、同時にクセもでてしまいます。海老を元々好んでいて食卓にも並べるような方は、そのクセを好まれます。

でも、新しい海老文化を創るうえで必要な、多くのお客さまに手にしていただくための「万人受け」を意識するならば、香ばしさと澄んだ旨みが前面に感じられるだしで使いやすくしたいと思ったんです。

 

―伺っていて1つ疑問に思ったのですが、海老に対する価値観が変わると、お客さまの日常・生活はどのように変わるのでしょうか‥…?

 

船田:価値観が変わること自体で生活が変わるというよりも、それぞれの変わり方に応じた喜びが生まれるイメージです。例えば、海老乃家の海老の美味しさをきっかけに、家族から「どうしたのこの海老!めっちゃ美味しいじゃん!」と家族に言われれば「でしょ、海老乃家の海老を選んでみたんだ」と自身を誇れたり、手軽さが料理の時短に繋がったときに大切な人の笑顔を見ながら食事を楽しむ時間が長くなったり。

「海老乃家」があることで、日常の幸せが増えていけば嬉しいなと思っています。
 

 

船田:また、ギフトに適した海老という新しさで「幸せをシェアできる相手が増える」なんてこともあったら嬉しいです。

 

―お客さまからの反応はいかがですか?

 

船田:それが、まさに「価値観が変わった!」と言ってくれる方がいるんです(笑) そんな言葉を聞けた時は、海老乃家を始めてよかった、と心から思えます。娘さんの結婚祝いやお店の開店祝いに選んでくださる方もいて、本当に大切なタイミングで海老乃家の海老を選んでいただけるのは、涙が出るほど嬉しいです。
 

 

「子ども世代のために」が「全世代のために」

―海老乃家は2021年にWWF*の法人会員になられたと思うのですが、環境問題への意識は元々高かったのでしょうか。

*WWF:人類が自然と調和して生きられる未来を目指し、およそ100カ国で活動している環境保全団体

 

船田:元々意識はありましたが、「年々高くなっている」が正しいかもしれません。私たちは、自然の恵みをいただいているブランドです。だから「人間が地球を勝手に開発して勝手に壊す営み」を当たり前にしてはいけない、という意識が常にあります。

私はキャンプが趣味で、始めてから7年ほど経つのですが、「やっぱり自然はいいなぁ」と思うたびに、海老養殖のために伐採されるマングローブが脳裏によぎります。そして、この自然や地球を守らなければな、という思いに駆られるんです。

 

―海老のために森林が伐採されているのですか。知りませんでした……

 

船田:そうなんです。私たちが天然海老を使っている理由にもつながるのですが、これは養殖方法に由来するものでして。

今までの養殖は、環境負荷の大きいものが主流でした。その1つが、海老に必要な栄養分が豊富でありながら管理者がいないマングローブを、東京ドーム数十個分伐採して養殖場にする……といったものです。

小さな島国でありながら世界の10%の海老を消費している日本では、国内生産だけでは当然その量をまかなえず、国内流通の9割以上が海外の海老となっています。だから、知らぬ間に環境負荷を与えてしまっているんです。

 

―そう聞くと、海老を食べることが少し怖くなってしまいます……

 

船田:もちろん、海外の海老を食べることが悪いわけではありません。それに、「この海老って環境に大きなダメージを与えながら育てられたものだよな……」と思いながら食べたら美味しく感じられないじゃないですか。だったら、国内での海老の生産量を増やし、自然と口に運ぶ海老が環境負荷の小さいものにしてしまえばいいな、と思ったんです。

そこで、小さなスペースで陸上養殖が出来るARK社製の養殖システムを導入し、サステナブルな閉鎖循環型の、海老の陸上養殖を始めます。

 

養殖システム立ち上げ時の写真

 

船田:また、海老乃家の工場で使用している電力は100%再生可能エネルギーにしています。これも「海老乃家」を選んでくださったお客さまが「知らぬ間に環境にやさしい行動をしていた」ということを実現するためです。

陸上養殖については、小さなスペースでの海老の陸上養殖が確立できれば、消費地に近いところで海老を獲り、スピーディーにお客さまに届けられるので、新鮮で美味しい海老を味わえる人が増えるはずです。

 

―環境負荷・美味しさの両方に繋がるなら、いいことづくめですね。

 

船田:それだけじゃありません。遊休地の有効活用、水産業界の働き口増加、食料自給率の向上、何なら輸出益の獲得……すべてに寄与できます。「これらが低いことが幸せ!」ってあまりイメージできないと思うんです。

海老乃家として美味しい海老を提供しつつ、こうした取り組みを続けていくことが、誰もが幸せな社会の実現にまっすぐつながっていると信じています。何より、このままでは自分の子ども世代が大変じゃないですか。言葉を選ばずに言えば、僕たちをはじめとする先人たちのツケを払う、みたいな……

 

―子ども世代、ですか。

 

船田:実は、私と妻の第二子は12年前に病気で他界しました。大切な人の死を間近で感じた時、私たち夫婦は悲嘆に暮れました。もう立ち直れないんじゃないか、自分たちは一生幸せになれないんじゃないか……でも、妻を見ていて思ったんです。仮に自分が立ち直ったとしても、妻が悲しんでいたらそれは幸せじゃない。これを広げていったとき、「相手が幸せでない限り、自分も幸せにはなれない」という幸せの構造に気づいたんです。
 

 

船田:つまり、ステークホルダー全員が幸せを共有している状態にならなければ、「真の幸せ」は実現できないな、と。

誰もがいずれは天寿を全うする日が来ます。それは当然、私も同じです。ならば、限られた時間で出来るだけ多くの人を幸せにしたいと思うようになりました。

 

―「多くの人」の中で子ども世代にフォーカスされたのは、考えをお持ちになったきっかけがお子さんだったからなのでしょうか。

 

船田:それもあります。先ほどお伝えした、利他の精神が宿る・「真の幸せ」に気づくきっかけをくれた私たちの子どもと同じ世代の、将来を担う子どもたちに貢献するために、残された時間を費やしたくなりました。

でも、親世代にとっても子ども世代の課題って他人事ではないんですよ。介護、外食、これから受けるであろうあらゆるサービスの先には「提供者」がいます。つまり、これから社会に出ていく世代がいなければ、大人たちは何もできません。だから、子ども世代を幸せにすることが、全世代の幸せにつながるのではないでしょうか。
 

Text by 5PM編集部

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