Annautは、アップサイクルで誰もが長く着られる「価値」を生む【後編】

2022.07.25
Annautは、デニムを生産するときの「裁断くず」をデニム製品へと生まれ変わらせるブランド。しかし、価値のないモノを価値あるモノにしたいと挑戦するAnnautは、自らを「デニムブランドではない」と語ります。背景にあるアパレル業界の「仕方ないロス」と、モノの「価値」について、創業メンバーの長谷部 透さんにお話を伺いました。
ブランド
アンノウト / アップサイクル
ブランドが大切にしている想い
地球と暮らす
Sustainability

価値=愛着

―「Annaut」というブランド名はどういった由来なのでしょうか。

 

長谷部:モノづくりの無駄を解決していきたいと思う中で、「無価値なもの」を示す”naught”に否定の接頭辞”un”と付け、さらにスペルを少し変え”Annaut”とすることで、読みを変えずにオリジナリティを出しました。

メッセージ性が強いと思われるかもしれませんが、フォーマルからスポーツウェアまで、同じアパレル業界の異なるジャンルに携わるメンバー全員が共通の課題感を持っていたので、「”価値のないものを価値あるものへ”というコンセプトを表現できる名前にしたい」という想いが重なり、Annautに落ち着きました。ボツになった案もかなりあるのですが(笑)

 

―そのコンセプト含め、ブランドの立ち上げは全員でゼロから創り上げたのですか?

 

長谷部:それで言うと、私たちの会社が服の生産を請け負う商社でして、ジーンズを作る際の裁断くずがロスになっているという課題がまずありました、そこに、アパレル業界へのモヤモヤを抱えていた若手社員が「自分たちの想いと裁断くずから生まれたデニム生地を合わせて何かできないか」と集まったという経緯です。
 

 

長谷部:しかし、私たちは自分たちを「デニムブランド」とは思っていません。先ほどお伝えしたような経緯もあり初めに扱ったのがデニムだというだけで、大きく言えば「アップサイクルブランド」と捉えています。使えなくなった価値のないものを、元よりも価値のあるものに生まれ変わらせる。いわば、レベルアップのようなことを続けて、サステナブルな社会に繋げたいと思っています。

デニムブランドではないと思っているからこそ、他の素材の活用は常に視野に入れています。デニムでなくとも、私たちが解決に取り組める領域を探し続けることが、私たちの想いの根本につながるので。

 

―長谷部さんは、「価値」とは何だとお考えですか?

 

長谷部:私は、「価値」とは「愛着」だと思っています。
価値って一人ひとり違うじゃないですか。周りの人からしたら「え、なんでそんなもの大事にするの?」と思うようなものって、本人に尋ねてみるとその人ならではの思い出があったり、「○○だから好き」と言えるものだったり……これってつまり、愛着こそが価値である証拠だと思っています。
 

 

長谷部:あと、時間に比例して想いって増すじゃないですか。だから、長く使えるようなものをAnnautでは提供していきたいです。私自身、保守的と言いますか、気に入ったものをずっと使い続けるんですよ。ポーチなんて高校生の時から同じものを10年以上使っていますし……大きさがちょうどいいですし、ファンシーでかわいいんですよ(笑)

 

―その「価値」を伝えるために、Annautではどういったことを伝えられているのでしょうか。

 

長谷部:私たちがありのままお伝えしているのは、「モノがどのように出来ているか」ですかね。「無駄がたくさんあるから、みなさんもこうしてください!」と上から目線で、わざとらしく強制したいとは一切思っていません。
大事なのは知ってもらって、そこからどう考えるかだと思っていて。

「別に私には関係ないし」でもいいですが、1人でも多くの人が「へぇ、そうなんだ……何か変えないとな」と気づいたり、考えたり、行動を変えたりできるきっかけになりたいです。服の生産・開発やPOP UPも、そのきっかけづくりです。

 

―その「きっかけ」を増やしていくために、現在Annautではどういった部分に力を注いでいるでしょうか。
 

創業メンバーの長谷部 透さん

 

長谷部:一番は、リアルでお客さまと接することですかね。私たちは通販サイトを中心に商品を展開していますが、素材感や手触りなどは実際に触ってもらえないと感じていただけない部分も多いんだな、と新型コロナウイルスでリアルイベントが減って痛感しました。サステナビリティ・環境に関わるイベントなら感度の高い方が多く来られるので、まずはそういったイベントに出店することで、認知・共感の輪を広げていきたいです。

 

―実際、手に取ってくださったお客さまからはどのようなお声があるのでしょうか。

 

長谷部:POP UPで製品を手に取った方は、よく「裁断くずで出来ているなんてわからない」と言ってくださります。これってアップサイクル製品として品質が高いことの証明である一方、「伝えないとわからない」証明でもあるんですよね。特にご年配の方はPOP UPで初めて知ることがほとんどで、手触りなどの「モノのよさ」に魅力を感じた後にお話しする中でAnnautの想いを知ってくださります。

なので、Annautは伝えるための接点を増やすことに注力しています。また、1つの企業だけで行うのにはどうしても限界がありますから、他社やメディア等との協力は欠かせないと思っています。


―他社というと、他のアパレルブランド等ですか。

 

長谷部:Annautは、他のブランドを「ライバル」とは思っていません。極論、別にAnnautの服を無理に買わなくてもいいと思っているくらいで。

もちろん、自分たちの製品を買ってくれたら嬉しいですよ! でも、私たち”だけ”で世の中を変えられるとは思っていませんから、他のブランドを”仲間”だと思っています。ブランドに関わらずサステナブルなものを手にしていただければ、「ファッション」という領域を変えられるはずです。最近では、URBAN RESEARCHさんの「THE GOODLAND MARKET」とコラボした商品を販売しました。

 

―SPBS本店で花屋さん・本屋さんとトークセッションをされていましたよね。これもまた「接点を増やす」に通じる部分だと思うのですが、なぜこの三者のコラボレーションが実現したのでしょうか。
 

SPBS本店で開催されたイベント概要

 

長谷部:全く毛色の違う三者に見えるかもしれませんが、アパレル・花・本業界には「ロスの活用に取り組んでいる」という共通点があります。

例えば花屋さんで言えば、母の日のためにカーネーションがたくさんお店に並びます。でも、売れ残って鮮度が落ちてしまった・枯れてしまったものは、当然処分……つまりロスになってしまうわけです。それらを、植物染めの原料等として再活用しています。

また、本に関しては日本の古紙回収技術はレベルが高く、リサイクルが非常に進んでいます。それに、ある人に読まれなくなった「古書」は、誰かからしたら良いものだから買い取って販売する、というリユースの価値が確立しています。つまり、業界として私たちの先を行っている、いわば「目指すべき業界」なんですよね。

「ロスが生じる」という課題は、おそらくどの業界にも共通していることでしょう。だからこそ、業界をまたいだコラボレーションをすれば色んな人の目に触れて、巻き込んでいけるのではないかと考えて企画が実現しました。
 

 

モノの値段の「意味」

―モノづくり以外の接点としてAnnautでは、自社メディア『study』による情報発信を行われていますよね。

 

長谷部:そうですね。自社メディアなら、自分の言葉で服作りの現状を伝えられるじゃないですか。『study』では、Annautのメンバーが「モノづくりのありのまま」を隠さず書きたいように書いていて、内容の縛りも「服に関する情報」以外特にありません。

また、書くときに一番心掛けているのは、自分の想いを出来るだけそのまま、ストレートに表すことです。普段接する服の背景に思いを馳せていただきたいからこそ、「”思う”ための材料」としてアパレル業界に携わる私たちの生の声・想いを伝えています。

 

―例えば長谷部さんは、「モノづくりのありのまま」としてどのようなことが真っ先に浮かぶのでしょう

 

長谷部:「思ったより面倒くさい」ですかね(笑)

アパレル業界に入る前の私は「服なんて機械が自動で全部完成させてくれているんでしょ」くらいに思っていたんです。ところが初めて海外の工場に訪れた時、想定以上に多くの人が仕事をしていて。服が好きなのに、その大好きなものの裏側について何も知らなかったんだ、と思い知らされました。
 

 

長谷部:Annautが店頭に並ぶまでにどんな過程を経ているのか知ってもらうと、「ああ、たくさんの人が関わっていて、工程もこんなにあるからこの値段なんだ」と納得していただけると思います。この経験があると、Annaut以外のモノを見た時にも「これってどのように出来ているんだろう」「なんでこんなに安い/高いんだろう?」と「モノの値段の意味」が気になってくるのではないでしょうか。

 

―モノの値段の意味、ですか。あまり考えたこともなかったです……

 

長谷部:服が安いのがおかしいとか、悪だとかいうわけではありません。趣味にお金を使う分服の値段は抑えたい、なんて方にはそういう服があってこそです。

でも、どんなものでも「安いから買う」一択ではなく、値段の理由や裏側にいる人・技術を知ったうえで、時と場合によって買うものを選んでほしいな、と思っています。「リサイクル製品ってごみを使っているし安いんでしょ?」ではなく、その過程に手間がかかっているからこそお金がかかります。
 

長谷部:とはいえ、Annautに共感してくださっても「ちょっと高いから手が出ないな……」と仰る方は一定数います。なので、ボーダーの部分だけに裁断くずを使用することでコストを抑えたTシャツ等、「Annaut入門編」になれるラインナップも揃えていく予定です。

 

―それで言うと、Annautがアプローチしたいのは、まさにブランドを立ち上げる前の長谷部さんたちのような「”モノの値段”について考えるきっかけのなかった人」なのでしょうか。

 

長谷部:そうですね……「安いから買う」が世の中から減ってほしいなと思います。10回モノを買うとしたら、そのうち1回は立ち止まって値段以外の部分に想いを馳せる、みたいな。

目先の安さにつられることなく中長期を見据えてモノを買うと、買い替える回数も減って、結局経済的にも理にかないます。しかも、モノを選ぶ基準が研ぎ澄まされれば「買う」が上手になると思うんです。すると、自分が「正しい」と思う選択を重ねていけば、納得いくモノに囲まれて、暮らしが豊かになるのではないでしょうか。
 

 

長谷部:ただ、そこを追求しすぎてしまうと面倒くさくなって、負担になってしまいます。それではサステナブルじゃありません。たまには、無駄な買い物をしてしまってもいいんです。買って後悔してもいいんです。でも、そこで自分を責めず、10回の買い物のうち1回くらい「今日は世の中のためになる買い物ができたんじゃないか?」とちょっぴり誇らしくなれれば、それでいいのではないでしょうか。

 

―「サステナブル」に欠かせない要素って、何なのでしょうか。

 

長谷部:とにかく「無理なく続けられること」ではないでしょうか。

ただの「流行り」になってしまってはいつか終わりを迎えてしまいます。それでは意味がありません。普段の生活で負担にならないこと、「よし、頑張らなきゃ」と力まずに済むことが、継続的なアクションには必要だと思います。そのためには、1つのブランド・商品だけでは難しいですよね。

Annautだけで世の中を変えられるとは思っていません。出会った人たちに変わるきっかけを提供していくことを様々な接点で地道に繰り返していく草の根運動が、自分たち自身のエネルギーを使い果たさないためにも大切だと思っています。

 


 

Text by 5PM編集部

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アンノウト / アップサイクル
生産過程で発生するムダやロスに注目し、再び幸せを生み出す「価値あるモノ」として提供していくアップサイクルブランドです。
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