タイの非日常が生んだLaughterのコーヒーが、日常に溶け込む【前編】

2021.12.23
Laughterは、タイ産の豆を使ったコーヒーを提供する京都のブランド。しかし、Laughter代表の矢野龍平さんは、大学までほとんどコーヒーを飲んだことがなかったと言います。そんな矢野さんがタイのコーヒーを提供する背景には、「会いに行きたい農家」と「人生で一番おいしいコーヒー」がありました。
ブランド
ラフター / クラフトコーヒー
ブランドが大切にしている想い
顔の見える関係
Craftmanship
当たり前を超えて
Art&Culture

体験が生んだ、味覚以外で感じる美味しさ

―そもそも、Laughterを始める前、矢野さんはどのようにタイのコーヒーと出会ったのでしょうか。

 

矢野:学生の頃ゼミでよく通っていたワイナリーに、タイ出身の従業員の方がいました。その方から「タイでは
現在コーヒーをたくさん作っている」と聞いて、じゃあ実際に行ってみよう、という話になりまして。

ワイナリーの社長と僕、その方の計3人でタイに行きました。日本でもコーヒーなんてほとんど飲んだことなかったんですけどね(笑)

で、タイに到着してから、何も口にしていない状態でその方の故郷にある農園に連れていかれまして。村長が出迎えてくれて、タイの民族流のおもてなしをしてくれました。

村長が笛で歓迎の音楽を奏でるなかその家族に見守られ、石のテーブルの上に敷かれたバナナの葉の上に、高級食材としてとれたての虫が出てきて。衝撃を受けながらも、お腹もすいていたのでバクバクと食べていました(笑)

Laughter 創業者の矢野龍平さん

 

でも、タイに着いて最初にそれを食べたからこそ、後は何を口にするのも抵抗なくて。当初の目的だったコーヒーを見に行き、実をそのまま食べて甘酸っぱい味に驚いたあと、そこで作られたコーヒー豆を自分で焙煎して飲ませてもらいました。

今思うと全然いい豆じゃなかったし、焙煎もフライパンで適当にしたので炭っぽかったはずなんですけど、その時飲んだコーヒーは本当においしく感じました。

今でも、あの時飲んだコーヒーが人生で一番おいしいと思っています。それは、コーヒー農園に行って、ストーリーを知り、人と触れ合って、景色いいところで焙煎して……という体験があったからだと思っていて。味覚以外の、物質的ではない部分が美味しさに及ぼす影響に初めて気づきました。

 

―そこからLaughterを立ち上げることになると思うのですが、このネーミングは何に由来するのですか?

 

矢野:タイでのある朝、起きたら目の前にコーヒー豆を持った知らないおじさんがたくさんいたんです。どうやら僕がお世話になっていた農家さんが「日本から客が来ている」と呼んでくれたようなのですが、彼らは営業ではなく「うちのを飲んでくれ」とコーヒーを持ってきてくれていました。

そのとき、彼らが何を言っているのか詳細は全然わかりませんでしたが、共通の言語がなくてもコーヒーを通してみんなが笑顔になる空間がありました。その空気が心に残っていたので、日本に帰ってどんなブランドを立ち上げようか考えたとき、その空間が理想として真っ先に浮かんできまして。

そこから、「笑顔」を意味する「Laughter」を立ち上げました。

 

タイに通うのは、好きな農家に会うため


―敢えて伺いますが、タイのコーヒー豆をメインで扱うことには、原体験以外にも理由があるのですか?

  

矢野:自分の原体験が一番の理由ですが、タイのコーヒーを扱う理由は他にもあります。地球温暖化の影響で、コーヒーの味や栽培できる地域は変わってきています。近い将来、赤道直下の主産地が暑くなりすぎて、世界全体のコーヒーの産出量が半減するという予測もあるくらいで。

そうなると、次に注目されるのは、アジアのコーヒー豆だと思っています。多くの企業がアジアの豆に注目しだしたとき、今のうちからつながりを持っていれば、この先もコーヒーを提供し続けられるかな、と。

また、タイが日本から近いというのも嬉しいんですよね。コーヒーは基本的に船便で運ばれますが、エチオピアやケニアなどから送ると1か月以上はかかります。輸送期間が長ければ長いほど、船や会社がトラブルに合う可能性は高くなります。

一方、タイからであれば10日くらいで運べるので、リスクを下げることができます。それに、農園に足を運ぶときの時間・旅費も高くなりすぎません。

 

もちろん、目先の利益だけ考えたらタイに通う得はないんですよ。コーヒー豆を手に入れるなら、基本的には商社から卸してもらえば大丈夫ですし。事実、ほとんどのコーヒー屋さんは農家さんとダイレクトトレードしていませんから、自分たちの取り扱っている豆がどう栽培されているか肉眼で見たことがないんですよね。

それに、現時点でタイはメジャーな産地ではないのにラオスやミャンマーよりは豆が高価ですから、リスクとコストが利益に見合いません。

 

―ではなぜ通い続けるのですか?

 

矢野:顔が見える関係として信頼を築きたい、というのもありますが、単純に「会いに行きたい」んですよ。最初は仕事の話だけしていた農家さんも、通っているうちにいつの間にか仲良くなっていて、気がつけば家に泊めてもらえる関係にまでなっていて。

「民族全体を支援するんだ!」とかではなく、自分たちの好きなコーヒーを栽培している、好きな農家さんを応援する気持ちですね。それに、直接の取引ということもあって、僕たちがお支払いしたお金で農園に屋根ができている、などの変化が目に見えると嬉しいんですよ。

 

―Laughterの看板商品でもあるコーヒー、「チャーリー」の特徴を教えてください。

 

矢野:アジアのコーヒーには、後味に穀物のような風味を感じるものもあり、これが苦手な人も多いです。でもチャーリーの豆は、実から種を取り出す際丁寧に水洗いするウォッシュドと呼ばれるタイプなので、乾燥過程で果肉の味が種に移らず、雑味のないすっきりとした味わいになります。

しかも、質の悪い豆は手作業で取り除いてくれているのも、味のクオリティが高い理由ですね。

 

あと、甘みが強いので他の豆と同じ高い温度で挽いたときコクはしっかり出ても苦みは突出せず、丸みのある味わいになります。クセがなく他の豆とも喧嘩しないので、うちで提供しているブレンド全てにチャーリーの豆は入れています。

 

―現在Laughterで扱う豆の種類は、チャーリー以外にも様々ありますが、どのような基準で豆を選んでいるのでしょうか?

 

矢野:シンプルに「チャーリーとブレンドしたときに美味しくなるもの」を考えていますね。一種の豆だけを使ったシングルオリジンのコーヒーもいいですが、「豆の産地にはこだわらないけど美味しさが大切」というお客さまが多いです。なので、味以外のエゴは入れていません。

というか、「コーヒーの味はこれこそが唯一の正解だ」みたいなエゴを持つほど、コーヒーに詳しくなかったんですよ、元々。タイに行くまでほとんどコーヒーを飲んだことがなかったくらいですから。でも、知らなかったからこそ、コーヒー界の常識に縛られず、「人気ではないタイのコーヒー豆をメインで扱う」というアイデアで突っ走れたのだと思います。

ちなみに、コーヒーの知識・イロハはAMANO COFFEE ROASTERSの天野隆さんに師事しました。初めてAMANO  COFFEE ROASTERSに突撃して門前払いされたとき、店主の天野さんに「じゃあコーヒーのこと僕に教えてください!」って頼み込んだんですよ。天野さんが京都でかなり有名なコーヒー界の重鎮だと知ったのはかなり後のことでした。
 

Text by 5PM 編集部

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