MERCI(メルシー)

2011年に佐賀県佐賀市の路面店にセレクトショップをオープン。2018年からはオリジナル商品を扱うブランドにリニューアルし、ECサイトと店舗にて「サスティナブルファッション」を展開。流行、季節を問わない定番服を軸にしながらも、SNS内で商品企画を行うなどファンとのコミュニケーションを重視した服作りが特徴的。生産工程の開示にも積極的に取り組んでいる。

セレクトショップで覚えた違和感と洋服の価値

─「MERCI」はセレクトショップとしてスタートし、現在は「サスティナブルファッション」を掲げてオリジナルの洋服を作っていらっしゃいます。その立ち上げのきっかけと、いまのかたちへと至った経緯を教えてください。

 

松田:洋服は中学生のころから好きでした。大阪の専門学校でファッションデザインを学び、佐賀に戻って起業しようかと考えていたときに東日本大震災が起こりました。「やりたいことはいまやらなければ」と強く感じ、半年後に「MERCI」を立ち上げました。当時は自分が良いと感じる洋服をセレクトし、販売することが楽しかったのですが、3年ほど過ぎたころから徐々に「ファッション」に対して疲れがきてしまったんですね。自分のやっていることは自己都合でしかないんじゃないか、と。

 

というのも、佐賀で店舗を持つとなると、売上の8割はお得意さまによるものです。お客さまはいつも新作を予約して、入荷後すぐに購入してくださるのに、その商品は数か月もするとセールになってしまう。いつも新作を予約して、入荷後すぐに購入してくださるのに、その商品が数か月もするとセールになってしまうことを残念がるお客さまも多くて…。そんな流行のスピードに付いていけない方が、離れていってしまうことも。

 

僕も良いと思ってご紹介しているのに、お客さまのそんな様子を見るたびに申し訳ない気持ちになっていました。だから、流行重視の「ファッション」は、ぼくが理想とする洋服との接し方とは違うな、と思うようになりました。

 

松田ジュン

─「ファッションのあり方」に違和感を覚えた、と。

 

松田:そうですね。そういったぼく自身の価値観の変化をきっかけに、MERCIは「将来も価値が下がらない服を作る」、つまり、ぼくが考える「本質的な服作り」という方向にシフトすることにしました。それが2018年ごろですね。

 

あらためてどんなブランドになりたいかを考えたときに、最初に頭に浮かんだのがAppleの製品のあり方です。いつでもどこでも場を問わず、流行もなく日常で使われる。MERCIの服も、そんな存在になれないかなと思ったんです。

 

─方向性をシフトするにあたり、ほかにはどんなことを考えたのでしょうか?

 

松田:あとは地元のお客さまの好みも意識しました。佐賀は江戸時代から葉隠(はがくれ ※佐賀の藩士が質実剛健を貫く武士道を説いた書物)の町と言われる土地柄。そのせいか、ベーシックなデザインが好まれる傾向にあり、流行を追いすぎる服は町で目立ちすぎてしまうし、お客さまが欲しい服ではないことが多い。

 

だから、新しいMERCIに向けての行動計画は、「一年中着られる定番服を作れないか」「定価でも欲しいと思える商品はどうすれば作れるのか」になりました。これが、今後のブランドの基盤となる「サスティナビリティー」につながっていく思考だとはまだ思いもしませんでした。

 

人を置き去りにしない「サスティナブルファッション」

─当初からサステナビリティーを志向していたわけではなかったのですね。目指すべき方向性としてリンクしたきっかけは何だったのでしょうか?

 

松田:じつは、中学2年生の娘の影響です。小学生のころから、学校で「SDGsやサスティナビリティーをどのように応用すれば地域が幸せになるか」という課題が出ていて、娘がぼくに質問したり意見を聞いたりするようになりました。最初のうちは全然答えられずにいたのですが、自分なりにSDGsを調べるうちに、「子どもたちが社会に出る10年後に、ぼくはファッションで何を引き継げるのだろうか」と考えるようになりました。

 

そこで、まずは自分の仕事である「洋服を作ること、売ること」とSDGsをどのようにつなげられるか、どうしたら次の世代にもMERCIの活動や洋服に共感してもらえるかを意識しはじめた。そして、SS/AWシーズンという流行があり(※通常、ファッションブランドは春夏/秋冬で新作を発表する)、シーズンごとの買い替えや消耗が前提になっているようではダメだというところに行き着くんです。

 

─ご自身では「サスティナビリティー」をどうとらえていますか?

 

松田:「世代を超えてすべての人が自分らしく、幸せに生きられる社会を未来につなげること」です。SDGsは「すべての人を誰も置き去りにしない」という基本理念が根幹にありますが、ファッションに「シーズン」という流行があると、その流行を追いかける人と追いかけない人ができ、追いかけない人が置き去りになってしまう。そこでMERCIでは、SS/AWシーズンという流行を中心にはしないと明確に決めています。

 

サスティナブルファッション「MERCI」のブランドビジュアル(画像提供:MERCI)

—Webサイトでは「服で、人をやさしくする。」という表現もされていますよね。

 

松田:そこには、「ファッション」と「衣類」の定義の違いが背景にあります。「ファッション」の意味を調べていくうちに、ある答えにたどり着きました。ファッションの始まりは、さまざまな人種や民族、宗教、国、言語の異なる人たちが、外見で差異や格差を示すために生まれたものだったのではないか、という自分なりの答えに。ファッションに対するモヤモヤした感覚が、すごく腑に落ちた瞬間でした。

 

自分がどんな人間で、人との差異を生み出すことが前提で、どこのヒエラルキーにあるかを表現する「ファッション」ではなく、競争のない、人をやさしくする「衣類」を作りたい。それが、ぼくにとっての「本質的な服作り」なんです。ぼくは他人との違いを生み出したいとも、着て自慢してほしいとも思っていないから、「ファッション」に違和感があったんだ、と。MERCIは、言ってみれば「ただの服」なんです。それをもう少し丁寧に表現すると、「衣類」という言葉になるのかなって。

 

—では、MERCIが提唱する「サスティナブルファッション」とはどのようなものでしょうか。

 

松田:やっぱり、「人」が中心にあるもの、だと思うんです。なぜなら、次世代へとつなぐ幸せな未来を作るのは「人」だから。先にもお話ししたように、SDGsの本質的な考え方に「誰も置き去りにしない」ことや「貧困をなくす」など、格差を生まないことが大切だと明確に定義されています。だからMERCIでは、流行だけを追いかけないという姿勢と同時に、商品の製造工程の透明化が重要だと考えています。

 

さまざまなしがらみがあるいまのアパレル業界でこれをやるのはとても難しいことなのですが、一着が完成するまでの工程に関わるすべての作り手を知ってほしい。「オープンキッチン」のようなイメージです。関わる人の数を知れば、誰もが「これだけの人が関わっているのに、なぜ1,000円で服が売れるのか」と疑問を感じるはずです。

製造現場で撮らせていただいた手もと(画像提供:MERCI)

製造現場で撮らせていただいた手もと(画像提供:MERCI)

—作り手の顔が見えることは、買う側の気持ちをどんなふうに豊かにしてくれると思いますか?

 

松田:たとえば、ウェブページの情報量がもっとも充実していて透明性の高い「プレミアム カラースラックス」という商品は、ブランドのなかでもトップレベルに値段が高いにも関わらず、購入率が高く、レビュー数も圧倒的に多いです。自宅で洗える、シワになりにくい、伸び縮みするので穿き心地が良い、国産生地&国内生産の縫製の良さなど、機能面を評価していただいているのはもちろんですが、透明性を高くすると商品へのコミュニケーションも濃くなるので、お客さまにとって商品の価値が上がることは間違いないと思います。

 

今後はSNSやECサイトなどでもっと情報の発信、可視化をしていきたいと考えていますが、残念なことに、作り手の方にご登場をお願いすると「自信がない」と断る方もいらっしゃいます。長年、製造に関わる方々が表に出ることを許さなかったファッション業界の構造の責任も感じます。誇りを持ってお仕事をされていることがわかるだけに悔しくて。なので、「まずは手もとだけでも」というように、いろいろな方に粘り強く交渉を続けています。

人気商品の「プレミアム カラースラックス」。現在は全部で8色で展開中(画像提供:MERCI)

—嘘がないからこそ、商品への信頼感や愛着も生まれるんでしょうね。

 

松田:そうですね。ぼくらはお客さまに嘘をつきたくないんです。これまでファッション業界が提示してきた流行は、よく言えば「創造的」で「クリエイティブ」ですが、悪く言えば「幻想」や「嘘」だと思うんです。いまは世の中的にその幻想が壊れつつあるせいか、MERCIからの提案はお客さまに良いかたちで捉えていただけている。以前は「エゴじゃないのか」と言われたりもしましたが、信念を貫いてきてよかったと思います。

 

—具体的には、どのような流れで商品が作られているのでしょうか?

 

松田:これも、プレミアム カラースラックスが特徴的かもしれません。商品を企画する際、Instagramのストーリーズでお客さまからいただいた意見をよく反映しているのですが、スラックスの要望を聞いていくと、原価が1本8,000円近くになったので、正直商品化は厳しいなと思っていました。

 

それでも要望が多いので、商品サンプルをアップしてみたらとても反応が良くて。原価を下げるために、中間業者を通さずに直接、生地商社さんに仕入れをお願いした最初の商品でもありますし、製造工程や作り手の方々の姿をしっかり伝えたくて岐阜の工場まで撮影に行った、とても手間をかけた商品なんです。おかげさまで、受注生産方式で追加生産を繰り返し、いまではMERCIを代表するアイテムとなりました。

—生地の仕入れ先だけでなく、工場選びも重要だったでしょうね。

 

松田:そうですね。お願いした工場さんは糸の始末など細部まで美しいんです。不明点についてはすぐに連絡をくださいますし、プロの視点でより適切な方法へと調整してくださるので本当にありがたいです。これは外国で安く作っていたらそうはいきません。ただ、こんなふうに丁寧に取り組んでいただけるようにするには、工場に適正な価格をお支払いすることが絶対に大事です。縫製工場さんへ工賃を下げる交渉は一度もしたことはありません。そうして初めて、良い物を作りたいというお話が一緒にできると思っています。

 

ニューノーマルの時代に必要なのは、やさしさと正直さ

—お客さまに長くつき合ってもらえる洋服にするには、何が必要だと思いますか?

 

松田:アップデートの要素だと思います。先ほど、洋服は販売した瞬間から価値が下がるものだとお話ししましたが、ぼくらは企画段階の未完成の状態から情報を出しはじめるので、販売後もさまざまな部分が細かく変わっていきます。具体的には、ウエストの仕様や、袖の長さや大きさなどのサイズを細かく修正したり、付属品のパーツを変更したりしています。クレームが出てもおかしくないのですが、実際はほとんどありません。季節によるプライスチェンジ制度も含め、多少の価格の違いや変更以上に「私の意見を聞いてくれる」という期待感や、納得して購入できる安心感などに価値を感じていただいているのだと思います。

 

だからこそ、普段からサイトのレビューやInstagramのDM、アンケートなどを大事にしています。目下、「1万5,000円のスラックスを通販で買うのは抵抗があるから試着したい」というご意見を実現させるために、他県のパートナーさん探しに奔走しています。

 

—新型コロナウイルスはアパレル業界にも大きな影響を与えましたが、MERCIにも変化はありましたか?

 

松田:まず、お客さまの数や売上が変わりましたね。じつは2021年1月に過去最高の売上を更新しており、アパレル業界が低調ななかでのこの結果は、MERCIの価値に共感してくださる方が増えている表れなのかなと。またお客さまからは「外出できないので、MERCIみたいな楽な服がいい」とよくうかがいます。コロナ禍で減収になられたお客さまもいるのですが、「少し高くてもいいから家でも外でも着られて、長く使えるものがいい」と。「価格」と「服としての価値」を考えて、シビアに判断される方が増えた気がします。

 

佐賀にあるMERCIの路面店

佐賀にあるMERCIの路面店

—MERCIの目指すビジョン、もしくはアパレル業界でどのような存在を目指しているかを教えてください。

 

松田:お客さまの数を増やしたいからこの取り組みをしよう、ということではなく、何よりも「透明性を高める」ことと「お客さまが必要とする商品作り」を続けたいと思っています。あとは、お客さまとのコミュニケーションはもう少し増やしたいですね。お客さまの数や売上増に伴って、いかに体制を丁寧に整えていくかが直近の課題です。

 

実は、会社を大きくしたいという気持ちが全然ないんですよね。先日から他のショップにも置いてもらう「卸売」も始めましたが、事業拡大のためではなく、お客さまに試着できる場所を作って満足してから購入いただきたいだけなんです。

 

—欲がないんですね。

 

松田:本拠地が佐賀だからじゃないですかね。東京にいたら、会社を大きくしたい、大きくしないと置いていかれる、なんて考えていたと思います。いま、いろんなセレクトショップさんにヒアリングにうかがっていますが、どこも商品の過剰在庫に悩んでいらっしゃいます。なぜ同じ九州圏なのに、オリジナル商品を生産しながら在庫を過剰に持たず、そのロット数を販売できるのかと必ず不思議がられます。でも、ぼくらも数年前までは過剰在庫に悩み、トレンドや流行を追う店の一つでした。

 

そこで、「いまの状況から脱却し、どうすれば自分たちの納得いく商品で、なおかつお客さまにも納得してもらえるかを一緒に考えませんか?」とご提案をしたら、2月だけでも5社からご相談をいただきました。ウェブサイトの問い合わせフォームからもお問い合わせをいただいている状態です。それほどいまのアパレル業界は過剰在庫が深刻な問題で、みんなが疲弊している。せっかく洋服が好きでファッション業界に入ったのに、たくさんの人がファッション業界に疲れて嫌いになって辞めていくのがすごく悲しくて。洋服が好きで、それを仕事にできたという幸せな感覚を、またみんなで一緒に共有できたらいいなって思います。

ご自宅近くの佐賀城を見ながらお店へ。通っていた小学校もこの中にあるのだそう。

ご自宅近くの佐賀城を見ながらお店へ。通っていた小学校もこの中にあるのだそう。

—最後に、SDGsやサスティナビリティーに意識が向いた結果、ご自身にはどのような影響があったと感じますか?

 

松田:人に優しくなった気がします。以前はもっと他人に厳しかったんです。サスティナビリティーやSDGsという言葉を使ってSNSで発信していると「できていないこと」の揚げ足取りをされることもありますが、それでも、まだできていないこと、いま取り組んでいること、今後やりたいことを素直に伝えて、いまのぼくたちに納得していただいた方に商品をお届けできていることがうれしい、と嘘をつかずに発信し続けてきました。そのうちにぼく自身も、人の未完成な部分を指摘するのではなく、「目指す方向といまそれに向かっていることがわかるならいいよね」と、許容できるようになったんです。

 

現代社会は完璧さを求められ、失敗すると叩かれる風潮があります。だから、心配で怖くなり挑戦することを躊躇してしまう人も多いです。でも完璧な人間なんていませんし、完璧さを求めるよりも、良い行動を大事にしたほうがいい。他社さんと「競争」するのではなく、お客さまとともに創る「共創」のほうが心地良い社会になると思います。みんなで調和しようとする流れに、少しずつでもなれたらいいですよね。

Text by 木村早苗 Photo by 菊池裕太 Edit by 石田有紀(CINRA)

2021.03.08